奈良県の医師宅放火殺人事件で、中等少年院送致された少年の供述調書を、ジャーナリストに漏えいしたとして、精神科医が逮捕された。事件は少年法や人権の問題とともに、「取材源の秘匿」「報道の自由」の問題とも深く絡む。報道の趣旨からも、医師逮捕は、取材活動の委縮を招きかねない。捜査当局には慎重な対応を求めたい。
事件は昨年6月に起きた。家庭内のトラブルから男子高校生が自宅に放火し、母親や弟、妹の3人を一酸化炭素中毒死させる、という痛ましい事件だ。
事件をめぐり、一人のジャーナリストが、少年事件に潜む闇と家族の在り方など供述調書をはじめ事件調書や精神鑑定書、非公開の少年審判のやりとりなど不開示情報を入手し、出版した。
少年のプライバシーに深くかかわる問題に、少年とその父親は「精神的苦痛を受けた」として、告訴し、奈良地検が供述調書などを漏らしたとされる精神科医を刑法の「秘密漏示」の罪で、ジャーナリストを「身分なき共犯」罪などの容疑で捜査してきた。
医師、弁護士などは、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他人に漏らした場合、「秘密漏示」罪となる。精神科医は、秘密漏示罪を問われ、逮捕された。
少年法は、成長過程にある未成年者の犯罪を成人と区別し、匿名など特別な配慮で人権を保護し、更生をサポートしている。
供述調書の漏示は、少年法の趣旨やプライバシーの観点からは許されるものではない。
一方で、家庭崩壊や青少年の凶悪事件などが後を絶たない厳しい現状を、事件の背景に潜む心の闇を掘り下げ、その解決を世に問う報道の役目、自由までもが否定されては、その先にある「権力の監視機能」までも崩壊しかねない。
特に権力報道は、相次ぐ冤罪(えんざい)事件や年金の不正徴収・使用、贈収賄、談合事件、警察汚職など、民主主義の根幹につながる巨悪と常に対峙(たいじ)し、監視、告発してきた。
権力の監視には、内部告発者や協力者の存在も欠かせない。だからこそ、権力報道に挑むジャーナリストには「報道の自由」とともに「情報源の秘匿」が必要となる。
報道側に問われるのは、善意の内部告発者の徹底した保護だ。社会正義のために、自らの危険を顧みず協力してくれる内部告発者を、権力や犯罪者の弾圧や脅しにさらすようでは健全な報道は維持できなくなる。伝える側、ジャーナリストの手腕と真価が問われている。
捜査当局を含む権力の側には、報道が果たす役割と情報提供者、内部告発者が持つ社会的役割への理解が不可欠だ。「角を矯めて牛を殺す」愚を犯すことがないように、より慎重な対応を求めたい。
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