「他喜力」とは人を喜ばせる力である。
「冗談いっちゃーいけねー、自分のことで精いっぱいなのに人を喜ばせるなんて…」。ちょいと待ってほしい。他喜力は己の向上につながるものである。
勝ち組に入るには学歴が尊重された個人主義の時代から、個人としての本当の力量が試される新個人主義の時代になった。そして昨今は孤人主義である。一人で生きているかのように振る舞い、社会という集合体の一員としての役割は果たさない。
宇宙にはエネルギー保存の法則があり、与えたエネルギーは必ず戻ってくるらしい。だから孤人主義を止(や)めてまず与えること、喜ばせてみることである。人に与えているようでも自分に返って来るから摩訶(まか)不思議である。
外来にお土産を持ってくる患者さんがいる。サーターアンダギー、もずく天ぷら、玄米おにぎり、なんでもござれである。外来が急に大衆食堂のようになる。ベッドに横になるその人を横目で見ながらそれらをほおばる。「先生! 行儀が悪いよ」「だっておなかがすいているから」。母親のような笑顔でほほ笑んでくれる。私を喜ばせようという患者さんの他喜力と目の前でうまそうに食べる私の他喜力とが見事にクロスオーバーする瞬間だ。
頑張るのが疲れたら他人のために頑張ってみることである。人は自分のためにと考えるとすぐに限界を感じる。でも他人のためだったらどこまでも頑張ることができる。
「エネルギーを下さい」って言う患者さんの背中を強くポンとたたいてあげる。エネルギーを与えるとどんどん自分の気力も充実してくる。それが他喜力である。なぜなら他喜力は多気力でもあるのだから。
(久高学、那覇市立病院乳腺外科部長)
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