沖縄には「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)という言葉がある。終戦から60年の歳月を経て、少しも色あせることがない。「戦争放棄」と「戦力不保持」をうたった平和憲法の危機がいわれる今日、むしろ輝きを増し、あらためてこの言葉の持つ意味の深さ、重さを感じずにはいられない。
第二次世界大戦は、武装した人間同士が殺りくを繰り返すこと、あるいは武器を手にした人間が武器を持たない人間の命を奪うことがいかに愚かで悲しく、絶対に許されない行為であるかを私たちに教えてくれた。
これを知るのに、筆舌に尽くし難い犠牲を払ったことは言うまでもない。大きな代償であり、「負の遺産」ともいえる。
沖縄戦を教訓に
大切なのは、過酷な体験から得た教訓を風化させることなく継承し、戦争を知らない世代に「平和を希求する心」をはぐくむことである。その原点となるのが「命どぅ宝」という言葉であろう。
戦時中、私たち国民は「お国のためにすべてをささげよ」と国家から刷り込まれた。「すべて」とは単に物的資源だけでなく、命をも含む。これに疑義を挟む者は「非国民」とされた。
沖縄も例外ではない。終戦の年は、米軍上陸とともに激しい地上戦が展開され、多くの住民が戦火に巻き込まれて命を落とした。戦況が芳しくないとみるや、日本軍は本土決戦の時間稼ぎに入り、沖縄を「捨て石」にしていく。
人間が人間でなくなるのが戦場だ。日本兵にスパイの疑いを掛けられ、殺害された住民もいた。離島などでは集団死を迫られた人々も少なくない。住民は食料を奪われ、避難していたガマ(自然壕)から追い出されて初めて「軍隊は住民を守ってくれない」ことを身に染みて知る。
人々が「命どぅ宝」の思いを、強くしていったのは想像に難くない。戦時中もこの言葉を支えに、わが子を殺すことなく、生き延びた人々がいたであろう。「死んでしまってはおしまい」「生きてこそ世のため、人のためにもなる」―これは沖縄の人々が過酷な体験から学んだ信念である。この信念を大事にすることが「平和を育てる」ことにつながるし、戦争犠牲者への一番の追悼にもなろう。
ただ、最近の日本は、戦争体験を教訓に「平和を育てる」方向へと足並みをそろえているかといえば、必ずしもそうではない。衆参両院の憲法調査会は平和主義を骨抜きにし、「自衛軍保持」を掲げる政党も出てきた。九条の「戦争放棄」を「安全保障」に変更し、条文から「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を削る内容だが、これではアジアの各国から「戦争への備え」と警戒されても仕方がない。戦後、吉田茂首相は「自衛のための戦争も放棄する」と表明したが、なし崩しになっている。
メディアの責務
「戦力の不保持」は平和主義の要である。戦争の愚かさを知った国民にとって譲れない一線だ。改憲派は有事のための対応だとか、国民保護法もあると言うが、逃げる手だてより、逃げる必要のない国づくりに努めるべきである。
メディアの責務も大きい。先の大戦で新聞は一時期、戦意高揚に加担した「負の歴史」を背負っている。その反省から、本紙は戦後60年の節目に「沖縄戦新聞」を発行した。社是に掲げた「恒久世界平和の確立に寄与する」の精神を忘れず、このような歴史を二度と繰り返さないという強い決意である。
「沖縄戦新聞」は、大本営発表ではなく、現代の視点で沖縄戦の実相に迫っており、学校現場で活用できるように戦跡案内なども加えた。沖縄に限らず戦争遺跡は加害と被害の両面から戦争を考える絶好の場所だ。とりわけ若い人には一度、訪ねてもらいたい。
残念ながら沖縄は、戦後米軍の占領が長く、復帰後も広大な基地が残されたままだ。米軍機の墜落事故や米兵による残忍な事件は後を絶たず、戦場さながらである。その意味では沖縄の「戦時」は続いており、脱・基地を果たさない限り「戦後」は始まらない。
イラクの悲劇が示すように、軍事力で民衆が救われた例は聞かない。それなのに日米両国は、沖縄を有事の際の軍事拠点としかねない状況だ。再び「捨て石」にされてはたまらない。今こそ「命どぅ宝」の原点に立ち、不戦の誓いを新たにしたい。
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