代執行訴訟第1回口頭弁論後の法廷でのやりとり詳報(要旨)

冒頭発言


 ■国側主張


 国側 司法の担い手である裁判所は、法的な観点から紛争解決をするために、双方の明朗な法律論を述べ合う場所だ。基地のありようや沖縄の行く末については、さまざまな政治的な意見や要望があると思うが、そのような事柄を議論する場ではない。


 法律論の骨子を申し上げる。法的に、行政処分には一般私人の行為とは異なる重みや特殊性があり、わが国の法体系はそれぞれ異なる取り扱いをしている。すなわち、行政処分に対する信頼性、安定性は保護されなければならない。行政庁が埋め立て承認のような行政処分を一度行えば、行政庁自らといえども、例外的な場合にしか取り消せない。この点において、最高裁判所の1968年の判例では、行政処分を取り消した場合に生じる不利益と、効力を維持することによる不利益を比較衡量して、かつ承認処分を放置することが公共の福祉に照らして著しく不当である場合に限り、例外的に取り消しができると明示している。


 仲井真弘多前知事が行った埋め立て承認処分が取り消されると、わが国の長年の懸案であり、96年にようやく日米間で合意に至った、世界一危険とも言われる普天間飛行場付近の住民の生命、身体、財産の危険を除去するという計画が白紙に戻る。そうなれば日米間の信頼関係が大きく損なわれ、わが国の防衛、外交、政治、経済などに大きな不利益が生じる。さらに名護市辺野古への移転計画のために既に費やされた何百億円という国民の税金が無駄になる。埋め立て承認処分を放置することによる不利益が、取り消すことによる膨大な不利益を上回るとは到底考えられない。最高裁判例が明示する公共の福祉に照らしても、承認処分を放置することが著しく不当であるという要件を満たさないことは明らかだ。


 被告は埋め立て承認を取り消す理由として、公有水面埋立法4条1項1号の国土利用上、適正かつ合理的な要件を満たしていないとし、この点について、普天間飛行場の代替施設を辺野古沿岸に設けることが適正かつ合理的である根拠が乏しいと指摘している。しかしわが国のどこに基地施設を設けるかは、よそからの攻撃に対しどう対処すれば全国民の生命、身体、財産、あるいはわが国の領土、領海を守ることができるかという国家の存亡にも関わる事柄だ。この事柄は公有水面埋め立ての事務全般を所管する国土交通相ですら判断の権限を有しておらず、法定受託事務として、埋め立て承認などの一定業務の権限を与えられたにすぎない都道府県知事が判断できるはずがない。


 被告は公有水面埋立法4条1項2号の「その埋め立てが環境保全および災害防止につき十分配慮されたものであること」という要件を満たしていないと指摘するが、本件は環境影響評価法のみならず、沖縄県環境影響評価条例に基づき、専門的見地から丁寧な環境影響評価が実施されており、環境保全および災害防止への配慮が十分されている。以上により、本件訴訟の結論は明らかだ。裁判所は代執行訴訟は特に迅速に判断すべきだという法の指示に鑑み、速やかに請求認容の判決をお願いする。



■県側主張


 県側 沖縄防衛局は2013年3月22日、沖縄県に対し、名護市辺野古の辺野古崎地区と、これに隣接する水域などを埋め立て対象地とする、普天間飛行場代替施設建設事業に関わる公有水面の埋め立て承認を出願した。埋め立て承認の出願は国が私人と同じ立場で申請したものではなく、固有の資格に基づいて出願されたことは明らかだ。固有の資格に基づく場合には、行政不服審査法による審査請求などは認められていない。行政不服審査は、行政側が個別の権利や利益の侵害を受けた私人を救済するための制度であり、外交国防上の利益といった公益のための制度ではなく、行政主体間の紛争解決を制度の対象とするものでもない。地方自治法上の観点からも、本件のように各大臣に対する審査請求を認めることは国と地方公共団体を対等、協力関係とする理念に適合しない。法定受託事務に審査請求を認めることには厳しい感がある。


 判断の客観性や公正性という点からも、国の判断の適格を認めることは重大な問題だ。国の審査請求などの適格を認めることは、国という同一の行政主体が審査請求などをして、これに対する判断をすることになる。国が一定の行政目的の実現のために地方公共団体に行った行為について、その地方公共団体による処分の是非を国が判断するならば、結論ありきの判断がなされる恐れがあることは誰の目にも明らかだ。従って、沖縄防衛局には本来審査請求などの適格は認められず、当該審査請求は不適合である。


 国がなした審査請求と、それに基づく埋め立て承認取り消しの執行停止決定、そしてこの代執行訴訟は密接な関係を有している。基地建設工事を停止せずに続行する手段は、審査請求手続きに付随する執行停止手続きしかない。その上でなおかつ代執行手続きを申し立てたことは、自ら裁決する意向を強固とするために裁判所を利用したと言われても仕方がない。


 次に代執行訴訟の要件を充足しておらず、棄却すべきという2点目について述べる。


 第一に現沖縄県知事による本件の埋立承認取り消しは適法である。行政行為に瑕疵がある場合、正当な権限を有する行政長は職権でこれを取り消すことができる。本件において、その要件適合性の判断は合理的になされたもので知事の裁量の逸脱ないし乱用はない。法定受託事務は国の事務ではなく地方公共団体の事務だ。地方自治法245条の3第1項は、国の関与について最小限度の原則を定め、地方公共団体の適正と自立性に配慮しなければならないと定めているのにもかかわらず、違法であるとして代執行ができるのであれば、国と地方の関係が対等であると言えなくなってしまう。原告の主張の根拠となっている最高裁判所の判例は、処分の相手方が一個人の事例であり、本件のように国の機関、特に固有の資格たる国の機関である場合は関係性が異なる。


 次に本件で言う法令違反の法令は、公有水面埋立法だ。公有水面埋立法は都道府県知事に承認権限を寄与しているから、知事は当該地方公共団体の公益を保護するため、その権限を行使すべき責務を負っている。同法は国防に関する事業について除外規定を設けていない。国防に関する目的の事業でも異なる取り扱いをする理由は見当たらない。基地建設は埋め立て対象地域の自然を喪失させ、県民の負担を将来にわたって固定化するものであり、その是非を知事が判断することは当然だ。


 前知事の行った埋め立て承認の瑕疵については、結論として、埋め立てが環境保全および災害防止に十分に配慮されているものであることは認められない。次に是正を図ることが困難であると言えるのかどうかについてだが、地方自治法以外の他に取り得る措置があるにもかかわらず、いきなり代執行を提起したものであり、要件を欠いたものと言わなければならない。


 公益要件については、国は本訴訟に先立ち、国の機関である事業者の沖縄防衛局をして、原告である国交相に対し、本件取り消し処分について審査請求および行政執行停止の手続きをし、本件承認取り消し処分の執行停止の決定をしている。埋め立て工事が現に進行している事実をもってすれば、原告が訴状で主張している公益上の不都合は全く存在しないのではないだろうか。以上のように、本件は代執行訴訟の要件を全く欠いたものであり、原告の請求には理由がないので請求の棄却を免れない。



利益の比較


 ■利益の比較衡量


 県側 公有水面埋立法で公有水面埋立の解釈について、仮に利益衡量するというのであれば、根拠法は第何条のどこに基づいて、国家機関のどこが判断するのか。衡量の判断は。われわれは公有水面埋立法の仕組みの解釈からすれば、知事が判断すると解釈するが、国側はどういう考えか。


 国側 領土と領民を守ることは国がやる事務だ。法律上で根拠を示せば、地方自治法1条だ。地方自治法で定められた権限では外交、防衛の権限を地方自治体の長が行うということは書かれてない。実質論としても国民を守るための基地をどこに置くのかということを地方公共団体の知事が判断することはできない。基地をどこに置くのかは国民の生命・身体・財産を検討できる、審査できる、判断できるところ、国が判断するということだ。


 県側 公有水面埋立法の適正かつ合理的要件の中で、当該埋め立て対象地の不利益は要件の中に入るのか、入らないのか。


 国側 公有水面埋立法が知事に与えた権限の中での不利益は当然入る。だが、知事に与えられていない権限に関することについては、そもそも衡量の対象になることはない。国の考えは埋め立てをする場所、区域について、例えば遠浅だからもっとこっちにしたらいいとか、この周辺は漁業権があるからどうしたらいいのかとか、地方独特の考え、地方について精通されている方が、その場所の埋め立ての国土利用上の必要性を考える。一方で基地問題というのは、どこに基地を置くかということは、そもそもこの要件として考えられていない。国土利用上では国交相の法廷受託事務だ。およそ国交相でさえ決められないような、そういう国防上、外交上の視点から、国土利用上どこがいいのか、ということは考えられている。


 県側 国は利益の比較衡量する時に地域住民の不利益を主張するが、漁業や地域生活など何か変に限定される。だが今、基地の負担というのはさまざまな生活上の被害や人権上の被害も含まれる。


 国側 基地をどこに造るのかということは、国土利用上の点で知事が検討する内容ではない。しかしながら、飛行場や港湾など埋め立ての目的が公共性の高いものは県知事の下で判断できる。だが、基地を日本のどこに置くのか、そういう意味での国土利用上では知事が判断するものではない。


 県側 自然環境、生活環境に非常に不利益が大きい場合、その目的が国防管理施設であった場合でも、知事の権限はないのか。国防問題では沖縄の不利益が大きくても一切判断できないということか。


 国側 周辺区域も含めて騒音がひどいとか漁業被害が生じるとか、その時は知事に判断権限がある。利益について、基地を造ることによって、その埋め立て周辺区域にどんなものがあるのか、被害があるのか、それは不利益で考えられる。ただ、基地にすることが適切かつ合理的なのかは、国が決める。


 県側 国の法律だと、国防的な施設を造る時に、仮に飛行機が飛び立つ施設を造る時に自然、生活環境に対して著しい不利益を与える場合、適切かつ合理的ではないという余地は、国防であってもあるのかないのか。


 国側 それはあり得る。その地域、辺野古の方々の騒音被害は衡量の対象になる。



15年使用期限


 ■米軍普天間飛行場代替施設の軍民共用化と15年使用期限問題


 国側 軍民共用飛行場の経緯は、第9回代替施設協議会が2003年4月に開催され、代替施設の規模について軍民共用飛行場を前提に検討するという方針に従い、政府側が作成した代替施設基本計画が了承、策定された。その後、06年5月に閣議決定された、在日米軍の見直しに関する政府の取り決めでは、普天間移設についてV事案を基本として代替施設の建設計画を策定するものとされ、軍民共用飛行場を前提にした03年の基本計画とは別に、代替施設の建設計画を策定することになった。その上で、06年8月以降、09年4月までに9回開催された普天間移設にかかる措置に関する協議会では、軍民共用飛行場を前提としない案を通り越して協議がなされているがその中で軍民共用飛行場に関する沖縄県側の発言はなかったと承知している。


 国側 15年使用期限については、99年12月の閣議決定で政府は代替施設の使用期限については国際情勢もあり、厳しい問題があるとの認識を有しているが、沖縄県知事および名護市長から要請されたことを重く受けとめ、本代替施設を含めて在沖米軍の構成について米国政府と協議することとした。その後、06年5月に閣議決定された在日米軍の兵力構成の見直しに関する政府の取り組みにおいては、これに伴い普天間飛行場の移設にかかる政府方針、99年12月の閣議決定、これを廃止するとされている。99年の閣議決定は継続されてないことが明確にされた。その後の国会答弁でも明確にされている。


 その上で06年8月以降、09年4月までに9回開催された協議会で、15年使用期限についてあらためて県側からなかったと承知している。このように軍民共用飛行場と15年使用期限については、06年5月の閣議決定以降の協議会で政府と県との間で協議事項になることはなかった。 


 県側 まず06年7月の段階では、日米間で合意された沿岸案以外は容認できず、政府案のみを前提とした協議の考え方ではないという答弁を読み上げている。7月の県議会では、新たな移設案を承認されたことで従来案がなくなり、移設案の条件であった15年使用期限については、政府に一方的に解消されたという主張を取る。新たな移設案は従来案でなければ、県外移転の県の基本的な考えと異なることから、県としては容認できないことはすでに明らかだ。それを淡々となくなりましたというのは、県側からすると一方的に破棄された。その点だけは一言申し上げたい。

「私人」問題


■国の「私人」問題


 県側 今回の事案は授益的処分だという前提に立つ。業者や第三者ではない。国が私人という立場で承認申請している。私人として侵害される利益は何か。必要最低限の公益とも思えるが。


 国側 国が鉛筆を買う時には私人の立場にある。だから沖縄防衛局が、埋め立てを承認してもらって、埋め立て行為をやるということについて生じる不利益は、私人という立場というか、ある機関が行ってるわけだから。その機関が受けたものについて、国も鉛筆を買う。


 県側 国家予算を使うのは、私人としての損害として捉えているのか。


 国側 私人とか公人というのは場面場面である。沖縄防衛局が、国民の税金を使って一定の支出をしたことを話している。


 県側 それは私人の利益とする趣旨か。


 国側 それは沖縄防衛局がすでに支出した国民の税金だ。


 県側 それは私人の利益として授益的処分の被処分者という前提で考えているのか。


 国側 それに答える必要はない。


 裁判長 答える必要があるかと言われれば、あるのではないか。


 国側 一つの機関はいろんな側面を持つ。例えばある目的のために契約を結ぶという行為を考えると、それは私的な行為かもしれないということだ。だから、今回、数百億円をすでに支出した。それは契約ですか、何ですかということであれば、それは鉛筆を買う行為に似ている。それが一般的に私人としての立場か、公人としての立場かという言う必要はない。


 県側 国が独自に授益的処分、私人としての立場であれば、個人的な私的な利益というのが出てくるわけだ当然。いろんな側面があるのは分かるが、今回の代執行訴訟で指摘する利益というのがあるなら話してもらいたい。今回の訴訟で授益的処分だから取り消しの権限があると主張しているわけだから、何が授益的かが問題だ。


 裁判長 国の説明によると実行するために業者と契約してすでに四百数十億円を払ったと。


 県側 国民の税金を使ったというが、これは公益ではなく私益だと国は話している。そうなのか。


 国側 それは私益ではないだろう。


 裁判長 互いにいろんな主張があるので、突き詰めていくと一致しない点がある。それをいちいちここでやっていたら話が進まない。


 県側 今後の訴訟で展開していく。



代執行の補完性



 ■代執行訴訟の補完性


 国側 代執行というのは国と地方が違う立場にある。考え方が違っている時に早期に解決するための仕組みになっている。


 県側 職務執行命令という上命下服の制度しかないのがおかしいということで地方自治法245条の7(是正の指示)ができた。代執行訴訟は他の手段がない場合に非常に例外的なことで極めて異例なもの。尋常ではない手続き。なぜ他の手続きがないのかという質問への答えにはなっていない。


 国側 地方自治法1条の2で、国は国際社会における国家としての存立に関わる事務や全国的な規模でもしくは全国的な視点に立って行わなければならない施策や事業の実施、その他本来国が果たすべき役割を重点的に担う。地方公共団体は住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うとなっている。本件の基地をどこに造るかということ、あるいはそもそも領土と領民を守ることは国の事務だ。国際法的な見地からも常識かと思う。国の事務であり憲法上の問題になるわけではないというのがわれわれの主張だ。


 県側 公有水面埋立法に基づく承認というのは国の事務か、地方公共団体の事務か。


 裁判長 それは地方の事務だろう。


 国側 はい。


 ■「分かりやすい瑕疵」


 裁判長 重要かどうかは別として、これは間違っていると一番分かりやすい瑕疵(かし)はどの辺りか。


 県側 (裁判所が求める)釈明の趣旨は一体何なのかと思っている。挙げている瑕疵について優劣を付けることはしていない。


 裁判長 一番分かりやすい、こんなミスがあるというのは。


 県側 県側としては「国土利用上適正かつ合理的」という1号要件のところが大きな比重を占めているし分かりやすいだろうと考えている。防衛外交問題が審査対象かどうかよりも、もっと県民レベル、地方自治レベルで分かる範囲での必要性について国側は説明していない。そういう意味では1号要件というのは非常に議論がしやすいところだとは思っている。環境要件で言えば本当はもっと膨大な数の意見があったが、絞って取り消している。例えば辺野古大浦湾の生態系の重要性をどう評価しているか。国の側は他の地域を調べる必要はない、関係はないと言っているが、自然生態系の保全というのはいろいろな場所との比較において、この地域はどの程度他の地域と比べて価値が高いのかある程度判断しなくてはならない。言っては何だが、大浦湾と安謝新港はやはり違う。宜野湾とか北谷とか、相当埋め立てされて自然海岸がなくなっているところの違いとかの問題がある。また例えばジュゴンのような象徴的な大型哺乳類の種が存続しうる生態系の重要性がある。国の側も日本産ジュゴンが絶滅していいとは言っていない。日本産ジュゴンの保全措置ということは国の計画でも言っているが、保全するという目標からしてどういう保全措置をして、それが本当に影響なくできるのかは大きな問題がある。


 裁判長 個別具体的な事実がどうこうというよりも、審査すべき密度とか深度が間違っていると。


 県側 そうだ。国が言っている、県は実現不可能なことを要求しているんだとか国の措置に確実性があるんだということについて、その前提となる調査、事実の把握自体がやはり合理的ではないのではないか。だからこそ結果として環境保全は無理だと言っている。


 裁判長 承認と取り消しの両方の実務を担当した人はいるか。


 県側 両方担当した人はいない。


 ■訴訟日程


 裁判長 書面を年内、12月28日までに出してもらい、次回は1月8日に開く。


 県側 書面は1月4日ころまでにしてもらえないか。こちらも突貫工事になってしまう。国の側もそうだと思うが、きちんと主張をかみ合わせるためにも。


 国側 きょう出された書面への反論を提出する。年内で対応する。


 裁判長 では28日までということにする。書証の提出は基本的に次回期日までで裁判所の方で大枠は大体腹は決まると思うが、最終的に争点を確認するのは次々回の1月29日になる。それまでに十分精査して腹を決める。弁論を閉廷する。