MANALAB★スタート 鈴木寛氏、平敷昭人氏、石川美穂氏に聞く


 

鈴木文科大臣補佐官に聞く
なぜ教育改革が必要?

 大学入試制度改革はなぜ必要なのか、対応するためにはどうすればいいのか。鈴木寛文部科学大臣補佐官に聞きました。

(聞き手・玉城江梨子)

 

AI時代、グローバル化を生きるためです

 

―2020年度に大学入試制度が大きく変わります。なぜ改革が必要なのでしょうか。

 「知識、技能」「思考力、判断力、表現力」「主体的に多様な他者と協働する力」が学力の3要素です。20世紀は与えられた課題を正確に高速に解いていく力が重視されていたので、学力の中でも「知識、技能」がより重要であると考え、入試もそれを問うてきました。

 しかし、デジタルテクノロジーが普及し、AI(人工知能)が発達していくと知識、技能の部分はAIやデジタルテクノロジーに取って代わられるようになります。英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は「今ある仕事の47%はなくなる。その多くは定型業務である」と言っています。要するにマニュアル通り、ミスなく早くやるという仕事はAIなどに取って代わられると言うことです。

 人間の仕事は非定型業務になっていく。特に哲学的、歴史的、文化的な価値を問うような仕事と、対人コミュニケーションを主とした仕事が人間の仕事として残っていく。すると思考力、判断力、表現力とか主体的に多様な他者と協働していく力が非常に重要になってきます。

 もう一つ、グローバル化が急速に進展しています。今や上司、同僚、部下、取引先など純然たるジャパニーズネーティブだけと仕事をするということはあり得ない社会になっている。さまざまなバックグラウンドの人と日常的に関わっていくときに、主体的に多様な他者と協働する力というのは非常に重要な力です。

―答えが一つじゃないということが実社会では多いし、異なる文化の他者と関わると特にそれを実感します。

 これから大事なことはcreativity(創造性)とinnovation(変革)。選択肢の細かいミスを発見する力ではなくて、新しい選択肢を提案する力であったり、問題を解決する力よりも問題を発見する力であったり、課題を設定する力の方が重要です。

 だからこそ、入試に記述式を導入します。正解が一つあってそれを問うマークシート型は人から与えられた選択肢の小さな間違いを発見し、消去法で答えを見いだすという思考パターン。記述式であれば、自分の問題意識に基づいて問いを立てたり、問いを立て直したりする。

―親の時代に求められた力、学びとは全く違います。子どもたちに求められている力は何でしょうか。

 今の小学生、中学生は2100年まで生きる。彼らが生きる時代は、日本では明治以来150年ぶり、世界では産業革命以来300年ぶりの歴史の大転換期です。この先何が起きるか分からない時代です。想定外の連続だ。

 グローバリゼーションとはどういうことかというと、常に板挟みになるということ。価値観が違うわけですから。その板挟みとどう向き合うのか。想定外と向き合って乗り越えるのかというのが子どもたちに求められます。

―このような力をつけるために具体的にどんなことが必要ですか。

 座学で学問を体系的に学ぶことも重要ですが、それだけに終わらず、実社会に存在する課題を自分の引き出しに入っているもの全てを総動員して解決する。自分の引き出しだけで足らなければ、友だちの引き出しを一緒に総動員しながら、なんとか問題を解決したり、あるいはプロジェクトを具体的に作ったりしていくという学び、プロジェクトベースドランニング(=PBL)が重要になってくる。

 沖縄は47都道府県の中で最もPBLに向いていると思います。さまざまな課題を抱えている板挟みや想定外に向き合い続けた沖縄は、ある意味で22世紀型の教育を、人材を輩出する一番の環境にあると言えます。

 その課題を大人も簡単には解けないけど、子どもと一緒に一生懸命向き合うということだと思います。

―大学入試が変わると小中高校の学びはどう変わりますか。

 大学入試が変わると高校の学びが相当変わる。すると高校入試も変わります。中学にも大きな影響を与える。特にPBLやアクティブラーニングが大きな変化です。覚えるだけでなく知識を活用して具体的な問題に向き合うかということが問われています。

 小学校はある程度それができているので、小学校は英語が一番大きな変化になると思います。

 


 

平敷昭人 沖縄県教育長に聞く
変化に対応できる人材を

 

 沖縄県は教育改革をどう受けとめているか。今後、学校現場ではどのような変化があるのか、平敷昭人教育長に聞きました。

(聞き手・東江亜季子)

 

―文科省が進めている教育改革をどう受け止めていますか。

 「簡単に先が見通せないこれからの時代に生きる子どもたちを育てるためだと思っています。人工知能(AI)が人間の仕事を取って代わる、グローバル化や人口減少が進む、仕事が新興国に移っていく。子どもたちが大人になる頃の仕事はどうなっているか予想できないのが現代です」

 「たとえば国際通りは、従来なら地元の人、県外からの観光客が多かったですが、今は外国語が飛び交っています。アジアからの観光客、欧米の人など、自然と外国が身近に入ってきています。私たちはもう、沖縄だけを考えていては仕事ができない。沖縄の観光産業の振興は外国への対応そのものですが、他の産業にも波及します。沖縄では、この大きな変化に対応し、状況を切り開く人材育成が必要です」

―県として教育改革にどのように対応しますか。

 「課題をみつけて議論し、問いを深めるアクティブ・ラーニング(主体的・対話的な深い学び)は、小中学校で既に取り入れています。高校は首里、八重山、具志川の3校をモデル校に指定して推進していますが、文科省が示す新学習指導要領の内容ともすり合わせながら、取り組みを横に広げてもいいと考えています」

 


 

石川美穂 NIEアドバイザーに聞く
新しい学びに新聞はどう役立つ?

 

 変わる大学入試。新聞から学べることはあるのか。日本新聞協会NIEアドバイザーの石川美穂さんに聞きました。

ニュースから「なぜ?」を考えよう!

 

―新しい学びに新聞は役立ちますか。

 「社会との接点を持つ教材として、教科を選ばず教材になり得るのがニュースです。一つの事象を複眼的に見たり、時系列を追って学んだりする際には新聞の役割が大きいと思います」

 「大学入試制度改革の柱として問題発見能力と問題解決能力の柱がありますが、二つを実現するには、世の中の動きとそのプロセスを知らなければいけません。解決策を導くために過去の経緯と、現に行っている対策を振り返り、成功例と失敗例に分類し、成功と失敗の理由「なぜ?」を考える必要があります。その「なぜ?」を考えるヒントの宝庫が新聞です」

 「新しい大学入試を受ける現在の中学2、3年生からは『新報小中学生新聞りゅうPON!』ではなく、本紙『琉球新報』を読んでほしい。自分が追いかけたい社会のテーマを一つ見つけると、それに派生する複合的な要素や課題が見えてきます。そして自分の中に知識や情報量が増えて蓄積できる。ひいてはそれが将来的なキャリア選択につながっていきます」

―家庭ではどのような視点で新聞を見たらいいですか。

 「『読む』ということに対して構えすぎないことが大切です。『こういうことがあるんだ』という感覚で、新聞を開いてみてほしい」

 「保護者は世の中を知る、子どものキャリア教育をするという点で、地域で起こっていることを知ることが必要です。知っておくことで子どもの進路を話し合う、アドバイスができるようになる。例えば保育士の待遇についてどんな課題があり、対策が講じられているかを新聞で知っておけば、子どもの進路選択、自己実現に向けて、情報を伝えて手助けできます」 

―学校では新聞をどう使いますか。

 「活字に触れる機会、正しい日本語に触れる機会がどんどん減っています。そんななか、新聞を使うことによって、活字を読む力をつけられます。テクノロジーの進歩や、教育現場でのICT(情報通信技術)の活用も進みますが、人間のコミュニケーションツールは長い間、文字が担ってきています。活字なくしてICTの活用はできないし、記録や記憶に残すために基盤となるものが活字だと思います。本など書籍で活字に触れることもできるが、出版物は時間差が生じてしまいます。新聞で、今起こっていることを世界、日本、沖縄、地域の視点で見ることが有効です」

 「学校は子どもにとって進路を考える場、自己実現の手段や方法を学ぶ場。社会と自分をつなぐツールとして新聞を活用もできます」

毎月第2、4月曜日に発刊の琉球新報の「MANALAB」に登場!

 まなラボの紙面を通じて、今起きている問題について考えてほしいと思っています。課題に対しての意見文やグループディスカッション、ディベートなどにも挑戦し、考察を深めていってください。大学入試などで取り扱われる小論文の傾向や表現活動をしていく上でのアドバイスなどをしていきますので、活用してくださいね。