『百円の恋』 安藤サクラが女優魂の極北を見せた


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 姉の安藤桃子が監督した『0.5ミリ』も評判の安藤サクラ主演。自堕落に生きていた32歳の自称“百円程度の女”が、中年ボクサーとの恋を機に自らもボクシングにのめり込んでいく話で、第1回松田優作賞を受賞した脚本を『イン・ザ・ヒーロー』の武正晴監督が映像化。主演女優、脚本、監督が三位一体となって高い次元で響き合った秀作だ。

 まず、職業俳優を起用したスポーツ映画の撮影で何が可能かを的確に見極めていく監督の判断力が見事。最たる例が、生々しくも巧妙なクライマックスの試合シーンだろう。アクション映画の撮れる今後が楽しみな監督の登場である。脚本で目を引くのは、緩急だ。とりわけ試合後に「嫌いな試合じゃなかったけどな」と口の悪いジムのオーナーが言う褒め言葉は、大泥棒のルパン三世がクラリスに見せるささやかな手品に通じるものだし、脇役の使い方のお手本ともいえる。
 それでも本作の一番の見どころは、やはり安藤サクラ。前半のすさみ加減と後半のボクシングの切れ味のコントラストは、『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・スワンクとは別の次元で女優魂の極北を見せてくれる。その意味では、むしろ和製『レイジング・ブル』と呼びたくなるが、いずれにせよ、日本映画ではちょっと珍しいタイプのスポーツ映画の誕生を祝福したい。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:武正晴
脚本:足立紳
出演:安藤サクラ、新井浩文
12月20日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也