<社説>反テロ大規模デモ 寛容な連携で闘い強化を


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 決してテロには屈しないという国際社会の強固な決意が示された。

 フランスの週刊紙銃撃や立てこもりなど一連のテロ事件で犠牲となった17人を追悼し、反テロの意思を打ち出すデモ行進にフランス全土で約370万人が参加した。「フランスの歴史上最大」(仏公共ラジオ)のデモ行進は表現、報道の自由を侵害する卑劣なテロへの深い怒りとテロを許さない意思を印象づけた。
 テロを抑え込む協調路線を一層拡充する一方、銃撃事件の容疑者がイスラム教徒だったことをもってイスラム教徒らに対する狭量な排除機運を高めてはならない。テロとの闘いの強化と、特定の人種や宗教を報復対象とすることのない寛容な連携の両立を求めたい。
 120万~160万人が参加したパリでの大規模デモには、世界50カ国の首脳らが駆け付けた。
 オランド仏大統領、メルケル独首相、キャメロン英首相らに加え、対立関係にあるイスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長、ロシアのラブロフ外相とウクライナのポロシェンコ大統領も肩を並べて行進した。国際社会の危機感が浮かぶ。
 国家や宗教の違いを超えて、自由と民主主義を守る価値観が空前のデモで共有された意義を今後のテロ対策に生かさねばならない。
 世界を震撼(しんかん)させた銃撃事件の後もテロ行為は起きている。銃撃された仏週刊紙「シャルリエブド」が掲載したイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を転載したドイツの新聞社が放火された。
 テロを主導するイスラム過激派はインターネットによる宣伝戦を強め、若者らを触発している。テロリスト予備軍が増える一方、監視網の整備は追い付いていない。
 欧米十数カ国の閣僚が国際会議をパリで開き、テロ対策強化を確認した。シリアなどのイスラム圏に渡航するテロ予備軍の取り締まり、テロを扇動するインターネットの規制、移動の自由制限などが検討されている。
 今回のテロは多様な人種や宗教を受け入れる欧州の寛容な価値観を揺さぶり、反イスラム感情が強まりかねない。射殺されたイスラム教徒の警察官の遺族は「過激派とイスラム教徒を混同しないで」と悲痛な叫びを上げている。
 イスラム教徒が報復対象になっては「テロリストの思うつぼで暴力の連鎖を生む」(潘基文国連事務総長)。この言葉を共有したい。