混同してる?「表現の自由」と「人権侵害」誹謗中傷・脅迫を書き込まない モバプリの知っ得![47]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

インターネットでの過激な書き込みが原因で、警察に逮捕されたり、名誉毀損で裁判となる事例があとを絶ちません。

今年1月、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの井納選手の家族を誹謗中傷する言葉を3年間にわたり匿名掲示板に書き込んだとして、20代の女性が約200万円の慰謝料を請求されたことがわかりました。
女性は週刊誌の取材に「軽い気持ちで書き込んだのに、どうしよう…」とコメントしています。

DeNA井納投手の「嫁酷評」提訴で注目 「選手の奥さん叩き」掲示板のエグい内容

また2月3日に、自民党の衆院議員・杉田水脈(みお)氏へTwitter上で「国会議員をやめて頂けないでしょうか?」「(このまま議員を続けると)貴方の娘さんに被害が被るかも知れませんよ。」と書き込み脅迫したとして、40代の男性が3月7日に逮捕されています。男性は「注目を浴びたくてやった」と容疑を認めています。

議員脅迫容疑で男逮捕=ツイッターで「娘に危害」-警視庁

さらに3月16日、市民団体代表の辛淑玉(シン・スゴ)氏を「(北朝鮮の)工作員」「スリーパーセル(潜伏スパイ)」などとTwiterに書き込み誹謗中傷したとして、ジャーナリストの男性が訴えられています。
ジャーナリストの男性はTwitterやブログなどで「冗談だった」「(他にも書き込んでいる人がいるのに)社会的に弱い私だけを狙って訴訟している」と言った旨の主張をしています。

「工作員と中傷された」 辛淑玉氏がジャーナリスト提訴

「表現・言論の自由」は魔法の言葉ではない

こうしたネットでの誹謗中傷・度を超えた書き込みは、紹介した3件だけではありません。
被害者が訴えずに事件化されないだけで、たくさんの酷い書き込みがあります。

こうした事件を語る上で避けて通れないのは、お笑い芸人・スマイリーキクチさん中傷事件です。

今から20年近く前、匿名掲示板に「スマイリーキクチは凶悪殺人事件の犯人グループの一員である」とデマを書き込まれ、そこから誹謗中傷が始まります。

書き込みはどんどんエスカレートし、デマを信じた人がテレビ局に苦情の電話などを入れて仕事がキャンセルになり、さらにはスマイリーさんやパートナーを脅迫する人も現れました。

当初は「ネットの書き込みだから」とまともに取り合わなかった警察も、スマイリーさんの粘り強い訴えに重い腰をあげ、中傷が開始してから10年経った2008年、特に悪質性の高い書き込みをしていた19名を検挙しました。

それ以降、スマイリーさんはお笑い芸人として活動しながら、ネットの誹謗中傷事件への啓発も行なっています。

ネットで誹謗中傷をする人たちが、自分を正当化するために「表現の自由」「言論の自由」と言った言葉をよく使います。

確かに表現の自由、言論の自由はとても大事な権利ですので、守らなければいけません。
同時に「表現・言論の自由」がどこまで認められるかは、状況やシチュエーションによって変わる。線引きをするのがとても難しいともいえます。

ただし、ネットでの誹謗中傷や脅迫などについては、明確に「アウト」となります。「表現」「言論」などの崇高なものではなく、ただの人権侵害です。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

スマイリーキクチさんは“表現の自由ではなく「表現の無法」”と例えています。

 

表現の自由・言論の自由は、人権侵害や差別・誹謗中傷・脅迫を帳消しにする魔法の言葉ではありません。

スマイリーさんが言うように、ネットだろうが匿名だろうが「表現の責任」が発生しますので、書き込む場合は本当に考えて、細心の注意を払って書き込む必要があります。

誹謗中傷・デマは消すのが大変

インターネットは誰のチェックも受けず、「投稿」ボタンを押だけですぐに書き込まれます。
こうして手軽に投稿できる一方、書き込まれた誹謗中傷・デマなどはずっと残ります。

スマイリーキクチさんの件では、1998年ごろからデマを書き込まれ、約10年経った2008年〜2009年に悪質な書き込みをした19名が検挙されました。
これで終わったかと思いきや…今だに誹謗中傷や脅迫は続き、2017年にも殺害予告を受けてテレビの生放送出演が取りやめになっています。

書き込む人は軽い気持ち、無意識・無自覚に中傷しているのかもしれません。書き込むのは一瞬・一回だったとしても、ネットや見た人の記憶には残り、完全に消し去ることは難しくなります。

そして誹謗中傷・脅迫を受けた人の心の傷、恐怖心も簡単には消えることはないでしょう

スポーツ選手、政治家、ミュージシャン、芸能人…多くの人に知られ、特定のジャンルで成功している人を「遠い存在」「テレビの中の人」と認識し、心のどこかで「何を言っても傷つかない人」と思うかもしれません。

しかし、彼・彼女らも私たちと同じように、傷つき、落ち込み、恐怖を感じます。

テレビを見ながら好き勝手感想を言うのと、Twitterなどで本人を攻撃する言葉を直接書き込むことでは責任の重さが違います。

この点を今一度、強く意識してネットを使う必要があります。

前述したように
ネットでは誰のチェックも受けずに「投稿」することが可能です。ブレーキをかけられるのは、自分しかいません。

 

 

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」3月25日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

http://smartphoneokoku.net/