一昨年公開された邦画「それでもボクはやってない」の中に印象的なせりふがあった。「無罪判決ばかり出している裁判官は出世できないんだ」
▼これを見て日本の司法制度に不信感を持った人は多いだろう。映画の中で、脅しに近い取り調べの実態は表に出ず、調書は書き換えられる。公判でどんなにでっち上げを主張しても、多くの裁判官は検察寄りで、密室で取られた調書が有罪の根拠になってしまう。検察側は、有罪に不利な証拠は提出しなくてもよい
▼来年5月、裁判員制度が始まる。月刊誌「世界」6月号で後藤昭・一橋大教授が、映画を見て裁判員になりたいと思った若者の例を紹介している。「裁判官に任せるよりも自分が参加したい」と
▼米国の陪審員制度を描いた映画「12人の怒れる男」も思い出す。有罪の根拠となった証言の一つ一つに主人公が素朴な疑問を投げ掛けると、他の陪審員も徐々に無罪に傾く。論理的な言葉のやりとりが民主主義を支えていることがよく分かる
▼説明不足など問題もあるが、裁判員制度は市民的常識を司法に反映する試みとして評価していい。新制度を控え、弁護側が検察官の手持ち証拠を知る機会も従来より格段に増えている
▼「それでも―」は幕切れの文字も印象深かった。「どうか私を/あなたたち自身が裁いてほしいと思うやり方で/裁いてください」
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