<金口木舌>奮闘が与える勇気と希望


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 児童文学者の杉みき子さんの短編に「あの坂をのぼれば」がある。裏山を越えさえすれば海が見られると幼い頃から聞かされて育った少年が初めて山を登る様子を描く

▼しかし、いくつ峠を越えても一向に大洋は望めない。足が震えだす。「あの坂をのぼれば」。越えた峰の先にはまた下りと登りの風景。体力は限界だ。それでも諦めないひたむきさが胸に迫る
▼沖縄の球児が夏の甲子園を目指した決勝戦は沖縄尚学、興南の双方が最後まで諦めずに死力を尽くした。まさしく沖縄球史に残る大激戦だった。最後は沖尚が延長十三回の熱闘を制したが、興南の踏ん張りも光った。夢を果たせなかったチームの思いも沖尚は背負う
▼県勢の甲子園での勝利数は春夏を合わせ98勝となっている。1963年選手権での首里の初勝利から56年。初出場から数えると61年。選手はもちろん、指導者らの努力のたまものでもある
▼他県に追い付けと指導理論やトレーニング法をどん欲に学んだ。対抗競技会の開催も先駆的だった。県勢のアルプススタンドにどよめく歓声や拍手は、もう判官びいきによるものではない
▼選手たちの大舞台での奮闘は県民に勇気と希望を与えてきた。挑み続ける球児の前に道は続く。伸びていく勝ち星はどんな夢を見せてくれるだろう。まずは沖尚の躍進に期待したい。諦めないプレーの先に栄冠は待っている。