<金口木舌>外国帰りはスパイ?


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 読谷村波平にあるシムクガマは、沖縄戦で約千人の住民が救出されたことで知られる。比嘉平治さん(当時72)と比嘉平三さん(当時63)が率先して投降したおかげだ

 ▼2人ともハワイからの移民帰り。戦前は「非国民」と呼ばれていた。平治さんは日本軍が家を接収しようとした際に拒否した。井戸で馬を洗っていた少尉を「人間が飲む水だ」と追い返した。墓の松の木を軍が無断で切った時も毅(き)然(ぜん)と抗議した
 ▼スパイ視されながらも軍の言いなりにはならなかった。「鬼畜米英」がうそだと分かるからこそ、抵抗せず投降できた。沖縄戦では、移民帰りの人が住民を救った例が各地にある。正しい情報を知る強みだろう。皇民化教育で世間が一色に染まる中、違う視点で自らの判断ができた
 ▼「外国帰りに要注意」。まさか70年たって同じ言葉が生きているとは思わなかった。特定秘密保護法を所管する内閣情報調査室が、秘密を扱う公務員の適性評価に「海外経験」を挙げていた(8日付23面)
 ▼「海外留学や勤務の経験があると、国家機密を漏らす恐れが高まる」と本気で考えているらしい。国際化が進む中、時代錯誤も甚だしい。こんな思想でつくられた悪法だから国民の目と耳と口をふさいでしまう
 ▼「戦争の最初の犠牲者は真実である」といわれる。世の中の空気に取り込まれない目で、政府の情報隠しを監視したい。