<社説>高検検事長定年延長 恣意的介入は許されない


社会
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 安倍政権が検察の人事を巡り前代未聞の閣議決定をした。定年を迎える黒川弘務東京高検検事長(62)の勤務を半年間延長したのである。

 検察庁法は、検事総長は65歳に達した時、それ以外の検察官は63歳に達した時に退官すると定める。定年延長の規定はない。政府の決定は、検察庁法に違反している疑いがある。
 それでもあえて定年の延長を強行したのは、稲田伸夫検事総長の後任に充てたい思惑があるためだとみられている。看過できない。
 検察の使命の一つは政治・経済の陰に隠れた巨悪を検挙摘発することだ。場合によっては特捜部が首相を逮捕することもある。
 検事総長は、全ての検察庁の職員を指揮監督する組織のトップだ。あらゆる政治勢力から距離を置いた存在であるべきなのは言うまでもない。
 時の政権による検察首脳人事への恣意(しい)的な介入は、権力側の意向に沿って捜査に手心を加えたり、政敵への摘発を強めたりするのではないか―といった疑念を呼び起こす。検察に対する国民の信頼は大きく傷つくだろう。
 検察官はいかなる犯罪についても捜査することができる。強大な権限を行使できる立場にあり、一般の公務員とはおのずから性格が異なる。検察庁法が63歳での退官を明記しているのに国家公務員法を適用して定年を延長するのは、法の趣旨をねじ曲げた、乱暴な解釈のように映る。
 国家公務員法に基づく定年延長であっても「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」に限られ、無条件に認められるものではない。安易な延長が横行すれば、新陳代謝と組織活性化を促す定年制度の目的が損なわれるからだ。
 森雅子法相は法的に問題ないとの見解を示し「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため黒川氏の指揮監督が不可欠だと判断した」と衆院予算委で答弁した。詳細は明らかにしていない。
 どんなに有能な検事長であっても、代わり得る人材は必ずいるはずだ。法相の説明を額面通りには受け取れない。
 法秩序の維持を任務とする法務省には、他府省にもまして法制度を厳格に運用する姿勢と高度な規範意識が求められる。「違法」「脱法」の疑いがある案件を閣議に付議したこと自体、大いに疑問だ。
 官邸は2016年の法務事務次官人事に際しても黒川氏を強引に推したといわれる。そして今回の定年延長だ。検事総長人事の布石と受け取られても仕方がない。
 検察庁は、検察権の行使に当たって常に不偏不党・厳正公平を旨とするとホームページでうたっている。その姿勢が失われれば、独裁政治の手先にもなりかねない。
 独立性、中立性を守るため、検察組織の側にも、政権中枢による介入をはねのけるだけの気概が求められる。