<社説>「慰霊の日」公示想定 配慮不足にも程がある


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 「なぜわざわざこの日に」。宮城篤正県遺族連合会会長の言葉が、多くの県民の思いを言い表していよう。

 自民、公明両党は来年夏の参院選公示日を6月23日と想定している。この日は沖縄戦の組織的戦闘が終結した「慰霊の日」である。沖縄戦犠牲者の死を悼み、平和の大切さをかみしめ、不戦の誓いを新たにする慰霊祭や追悼式が県内各地で執り行われる。沖縄にとって最も大事な日と言っても過言ではない。
 多くの県民が静かにこうべを垂れて犠牲者の死を悼み、全国からも異郷の地で亡くなった人たちの遺族が鎮魂に訪れる。その追悼の日に選挙「戦」がスタートし「出陣式」を行う。犠牲者や遺族をないがしろにするようなものだ。配慮不足にも程がある。
 改選議員の任期は来年7月25日まで。通常国会の会期を延長しない場合、選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げた改正公選法施行日の6月19日を考慮すれば、公示日は「慰霊の日」、6月30日、7月7日に絞られる。
 「慰霊の日」公示以外は、投開票日が3連休の谷間や夏休み期間ということで投票率低下が懸念され、現段階では除外されている。
 だが考えてみてほしい。投票率向上は容易ではないが、政策論争を活発にすることで有権者の関心が高まる可能性はある。これに対し「慰霊の日」はどうあがいても、動かすことはできない。
 選挙が重要であることは論をまたない。一方で「慰霊の日」だけでなく「広島原爆の日」(8月6日)、「長崎原爆の日」(同9日)、「終戦記念日」(同15日)も同じように重要である。その証拠にこの四つの日が国政選挙の公示日・投開票日になったことはない。
 歴代政権や与党がそれぞれの日の重みを十分に認識していたからだろう。だが今の政治にはそれがない。6月23日が「慰霊の日」と指摘し、変更する動きが即座に出ないことに、政治の劣化を感じざるを得ない。
 サンフランシスコ講和条約発効の日(4月28日)に2013年、政府は「主権回復の日」として式典を強行開催した。日本の独立と引き換えに米国に差し出された沖縄で「屈辱の日」、奄美では「痛恨の日」とされる日にである。安倍政権はあの無神経な姿勢を繰り返してはならない。「慰霊の日」公示は避けるべきである。