<社説>生活保護と進学 政府が貧困脱出を阻むの愚


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 実は生活保護を受けながら大学や専門学校には通えない。そんな時代遅れの原則を政府が持っていることが、今秋の参院内閣委員会で明らかになった。

 親の貧しさが子の貧しさを招いてしまう「貧困の世代間連鎖」を断ち切るどころの話ではない。貧困から脱出する道に政府が立ちはだかってどうするのか。
 政府は速やかに運用を改善すべきだ。進学容認にとどまらず、奨学金を全面支給するなど、むしろ進学を奨励する方向へ抜本的に改めるべきだ。
 かつては大学どころか高校への進学すら認めない時期もあったが、1970年度からは認めるようになった。背景には進学率の変化がある。53年度まで5割を割り込んでいた高校進学率は高度成長期に急上昇し、70年度には8割、74年度には9割を超えた。運用改善はその傾向を反映した。
 今、大学・短大の進学率は54・6%、専門学校は16・6%(15年度学校基本調査速報値)、計71%余に達する。「高卒で就職」の原則にこだわる必要があるのか。
 現在でも進学の方法がないことはない。「世帯分離」という手続きをして、その子だけが保護を外れれば進学できるのだ。進学する子が一緒に住んでいるか1人暮らしかは問わない。だがその分、保護費は減額される。例えば両親と子ども2人の世帯で上の子が進学すれば、両親と下の子の3人だけが生活保護を受ける形となる。
 国の仕組みが進学断念を迫るのに近い。その結果、保護世帯の進学率は大学19・2%、専門学校13・7%、計33%程度にとどまる。
 学歴が収入に影響するのは紛れもない現実だ。シンクタンクの試算によると生涯賃金は大卒が高卒を6千万~7千万円上回る。
 政府は15年度補正予算で「親の経済的事情が子の将来を左右しないように」と、高校・大学の学費貸与に25億円を支出する。だがこの額では支援先は限られる。貧困の連鎖を断ち切るなら、むしろ生活保護世帯の子こそ進学させるべきではないか。
 予算配分の抜本的見直しが必要だ。例えば自衛隊のオスプレイ購入に3600億円を投じる予定だが、これを取りやめて振り分ければどれほどの子が進学できるか。
 教育への支出は財政の投じ方として費用対効果がすこぶる高いというのは常識だ。将来への投資としてもっと大胆な配分をしていい。