<社説>ヘイトスピーチ法 根絶の機運高める契機に


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 特定の人種や民族に対する差別的な言動を繰り返す「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)をなくす機運を高める契機にせねばならない。

 ヘイトスピーチの対策法案が参院で可決され、衆院での審議を経て今国会での成立が確実になった。
 在日韓国・朝鮮人らを標的にし、「殺せ」「ウジ虫は出て行け」などの暴力性むき出しの言葉で差別をあおる街頭デモなどが繰り返され、多くの人たちを恐怖に陥れ、傷つけてきた。
 法務省の初調査によると、2015年9月までの3年半で1152件が確認された。全国でほぼ毎日、デモがある計算になる。民主主義国としてあるまじき事態だ。
 国連は、日本が人種差別撤廃条約を21年も前に批准しながら、憎悪表現を抑える国内法が未整備なことを厳しく指摘している。国際社会から、日本は人権後進国と見なされかねない恥ずべき状況だ。
 憎悪表現は人権侵害そのものであり、到底容認できない。その根絶に向け、立法化を人権教育などの幅広い取り組みの弾みにしたい。
 対策法案は「地域社会からの排除を扇動する不当な差別的言動は許されないことを宣言する」と明記した。具体的な対応として、国や自治体の相談窓口の整備や教育、啓発の充実などを促している。
 一方で、「表現の自由」に配慮し、公権力の介入には抑制的な理念法にとどめ、禁止規定や罰則は設けていない。憎悪表現を繰り返す団体などを抑える実効性があるのか、疑問を呈する識者もいる。
 表現の自由の擁護と憎悪表現の抑止を両立するには、国や自治体が先頭になって法の周知徹底、啓発などの責任を果たさねばならない。主権者である国民が主体的に向き合う雰囲気づくりが重要だ。
 法案は、憎悪表現の対象者を「本邦外出身者とその子孫」「適法に居住する(本邦外)出身者」と限定しており、該当しないアイヌ民族や難民申請者らが標的になりかねない。そこはやはり、対象を「人種や民族」と広く定めた野党案を採り入れるべきではなかったか。
 自民党の国会議員の中に、法の趣旨から逸脱し、辺野古新基地への反対運動などがヘイトスピーチに該当すると示唆する発言があった。自公両党は火消しに追われ、「含まれていない」と明言し、ようやく成立に至った。
 恣意(しい)的な運用をさせないため、監視の目を光らせる必要がある。