<社説>「南西シフト」支持76% 沖縄は防波堤ではない


<社説>「南西シフト」支持76% 沖縄は防波堤ではない
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 戦後80年を前に、戦争に対する危機感が強まっている。本社加盟の日本世論調査会が実施した平和に関する全国世論調査の結果、創設70年となった自衛隊の今後の在り方について「憲法の平和主義の原則を踏まえ『専守防衛』を厳守するべきだ」と回答した人が68%に上った。

 岸田政権は2022年末、23~27年度の5年間で防衛力を抜本的に強化し、総額43兆円程度の防衛費を投じることを決めた。

 防衛費だけではない。22年に安保関連3文書を閣議決定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、防衛装備移転のさらなる緩和も決定した。英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出も解禁した。

 政府は憲法に規定された「平和主義」の看板に反し、「専守防衛」という戦後の防衛政策の国是を覆して、戦争ができる国づくりを着々と進めている。

 「『専守防衛』を厳守するべきだ」と回答した人が約7割に上ったのは政府の防衛政策に対する危惧の表れであろう。政府は国民の声に真摯(しんし)に向き合い、東アジア地域に緊張をもたらす軍備強化を見直すべきだ。

 県民にとって衝撃的な回答結果もある。台湾有事を念頭に政府が進める「自衛隊の南西シフト」に賛成する人は76%にも達した。軍事的緊張の高まりの中で沖縄を防波堤と位置づけ、自衛隊基地の拡充を進める政府の戦略に高い支持が集まっているという事実に暗たんとなる。

 沖縄を防波堤にしてはならない。日本防衛のために沖縄が再び戦場となるのは「やむを得ないこと」と是認する意識が国民に広がっているならば県民にとって耐えがたい。沖縄を「皇土防衛」の捨て石とした沖縄戦の悲劇と教訓が国民全体に共有されていないのではないか。

 一方、「台湾有事」については、直接介入を望まない声が多かった。日本がどのような行動を取るべきだと思うかとの質問に対し「外交努力や経済制裁など非軍事の手段で対応する」との回答が54%と過半を占めている。

 自衛隊と米軍は、台湾有事を想定した作戦計画を策定している。25年ごろに部隊を実際に動かす演習(キーン・ソード)を実施し、作戦計画の有効性を検証するというが、調査では「米国との集団的自衛権を発動し、日本も武力行使に加わる」は9%にとどまった。武力行使に慎重な姿勢が鮮明になっている。

 国民は武力行使による解決は望んでいないのだ。台湾有事を短絡的に日本有事と結び付けるべきではない。

 岸田政権は、今回の世論調査の結果を重く受け止めるべきだ。「平和主義」を守り抜き、戦争回避に向けたあらゆる努力を続けることが大戦で得た教訓である。感情論に任せた拙速な議論は戦争の危機を高めるだけである。