<社説>大浦湾本体工事開始へ 立ち止まり対話すべきだ


<社説>大浦湾本体工事開始へ 立ち止まり対話すべきだ
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 名護市辺野古の米軍新基地建設で、防衛省はきょうにも大浦湾側での本体工事を始める。大規模な地盤改良や埋め立てが世界的に貴重な海に深刻な影響を与えることは明らかだ。防衛省は、県との事前協議をないがしろにし、サンゴ移植などの対応もずさんで乱暴極まりない。

 新基地に反対する県民の意思は揺るがない。改めて、辺野古埋め立ての断念と普天間飛行場の閉鎖を求める。政府は立ち止まり、県と真摯(しんし)に対話すべきである。

 昨年12月、福岡高裁那覇支部が出した設計変更承認を県に命じる判決に知事が応じない判断をした際に、政府は代執行をせずに対話をすることが可能だった。しかし、斉藤鉄夫国土交通相は有無を言わさず代執行をした。そして、仲井真弘多元知事が埋め立て承認の際に「留意事項」とした県との事前協議をせずに1月、海上ヤード(資材置き場)の造成を始めた。サンゴの移植もしないままだった。

 その後、サンゴ移植許可を巡る訴訟で県が敗訴し、やむなく県が5月に許可すると、防衛省はすぐに移植に着手した。日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全学術委員会は「5~9月は造礁サンゴ類の繁殖期に相当しており、この時期の移植は避けるのが望ましい」としていた。しかも、サンゴの白化現象が深刻なさなかだ。無謀で無責任というほかない。

 防衛省が7月に実施したくい打ち試験も問題だらけだった。準備作業で、作業船のアンカーチェーンが移植予定のサンゴに傷を付けた。また「沖縄ドローンプロジェクト」は汚濁防止膜から濁り水が流出している写真を公開した。工事が本格化すれば汚染がひどくなる恐れがある。

 1月以来、県は事前協議を求めながら7回にわたって質問を繰り返してきた。その間防衛局は、作業ヤード造成やくい打ち試験を、事前協議の対象ではないと決めつけてきた。そして、4回目の質問に答えた6月18日、一方的に「協議は調いつつある」として、8月からの本体工事を通知したのである。

 さらに、護岸工事4件で予算が170億円増額されていたこともずさんさの表れだ。

 6月28日に起きた名護市安和での埋め立て土砂を運搬するダンプカーによる死傷事故では、沖縄防衛局が反対する市民の抗議活動を「妨害行為」だとして県に安全対策を要請した。警察が捜査中であり、市民側は防衛局が業者に無理を強いたからと主張している。県に運動を抑え込ませようとするのは筋違いだ。

 工事が本格化すれば、沖縄戦犠牲者の遺骨の混じる土砂が使用されることへの懸念も、全国で高まるだろう。

 代執行訴訟の福岡高裁那覇支部判決は「付言」で「対話による解決が望まれる」と述べた。政府は今こそ対話に転換し、貴重な海の保全と沖縄の負担軽減に取り組むべきである。