<社説>奄美土砂で国調査 無謀な計画、固執許されぬ


<社説>奄美土砂で国調査 無謀な計画、固執許されぬ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 実現性が疑問視されている工事に膨大な公金を投じ、自然を破壊する、あまりにも合理性に欠く計画だ。政府は立ち止まって計画断念を考えるべきではないのか。

 米軍普天間飛行場の返還に伴う辺野古新基地建設に用いる土砂を確保するため、政府は鹿児島県・奄美大島で現地調査を実施する。確保した土砂は、軟弱地盤がある大浦湾側の埋め立てに使用する。

 政府は土砂に特定外来生物が混入していないかを調べる考えで、9月にも調査を開始する。土砂を洗浄すれば搬入は可能と判断しているが、大量の土砂を洗浄するだけで、外来生物を除去することが可能なのか疑問だ。

 新基地建設計画を冷静に検証する必要がある。沖縄の土砂だけで辺野古新基地建設に必要な量をまかなえないから、他県の土砂を持ってきて大浦湾に投じようとしているのである。無謀な計画であり、固執は許されない。これでは普天間飛行場の危険性除去は見通せないのではないか。

 新基地建設計画全体に要する土砂量は約2020万立方メートルである。大浦崎の西に位置する辺野古側の埋め立てで用いた土砂量は約318万立方メートルで全体の約16%に過ぎない。今後、7万本の砂杭(ぐい)を打ち込んで軟弱地盤を改良し、埋め立てるという難工事が待っている。

 工事の長期化は大浦湾の環境悪化を招くであろう。奄美の自然環境にも悪影響を及ぼす可能性がある。

 2013年時点での防衛省の予定では、土砂の確保場所は奄美大島を含む西日本6県を想定していた。19年になり、必要量を県内で確保できるとの見通しを得たとして、全量を県内から調達することになった。外来種侵入の規制を理由に土砂搬入を制限する県の土砂条例を回避する狙いがあったとみられる。

 結局は今年4月、防衛省は奄美大島で採掘した土砂の使用を検討していることが明らかになった。県内の土砂だけでは足りなくなったのである。沖縄戦犠牲者の遺骨が混入した本島南部の土砂を使用することへの県民の反発を避ける意図も透けて見える。

 これらの経緯をみても、土砂の確保先は定まっていないのである。沖縄防衛局は今月20日、大浦湾側の護岸造成に着手し、22日には死傷事故で止まっていた名護市安和での土砂搬出作業を再開した。

 安定的に土砂を確保できなければ工事は行き詰まり、防衛省はさらなる土砂調達先を求めることになる。公共事業として破綻しており、実現不可能な工事だ。政府は直ちに計画を断念し、普天間の危険性除去に向けた新たな方策について米側と協議すべきだ。

 県は土砂条例の厳密な運用が求められる。防衛省の不十分な調査や洗浄によって外来生物が混ざった土砂が大量に持ち込まれる可能性がある。条例そのものの形骸化を許してはならない。