<社説>那覇軍港移設掘削調査 悔い残さぬよう議論を


<社説>那覇軍港移設掘削調査 悔い残さぬよう議論を
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 美しい海に似つかわしくない光景だ。米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添移設に向け、沖縄防衛局がボーリング(掘削)調査を始めた。西海岸道路ができて県民に身近になった海で、クレーン船や台船が作業をしている。このままこの海を失っていいのか、もう一度問い直すべきではないのか。

 環境影響評価(アセスメント)の計画段階環境配慮書に対する住民意見(パブリックコメント)が、この日までに300件提出された。日本自然保護協会は「中部西海岸に残る数少ない健全なサンゴ礁」が失われる可能性があるとして計画の中止を求めた。市民有志は「『辺野古は駄目で西海岸はいい』という県の考えは、どちらも軍事施設である点で矛盾している」と移設を容認する県を批判し、市民の声を聞くよう求めた。

 玉城デニー知事は掘削調査開始について会見で「疑義がなければ認めることになっている」と述べた。同時に、環境保全の見地から防衛局に提出した知事意見では「生態系への重大な影響」に懸念を示し「埋め立て面積を最小限に抑える必要がある」とした。

 1974年に移設条件付きで那覇軍港の全面返還を日米で合意し、96年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告で浦添埠頭(ふとう)地区が移設先となった。98年の稲嶺恵一知事誕生以降、県は移設を容認してきた。浦添市は2001年、当時の儀間光男市長が受け入れを表明した。移設反対を掲げて13年に当選した松本哲治現市長は、15年に容認に転じ、再選を果たした。

 21年の市長選は、玉城知事を支える「オール沖縄」が新人を擁立し、浦添移設が争点になったが、松本氏が大差で3選を果たした。「オール沖縄」は候補擁立に紆余(うよ)曲折があり、知事とも足並みがそろわず、コロナ禍で有権者の関心は経済に向いた。それでも移設反対の新人に有効投票数の4割が投じられた。

 日米両政府は、代替施設について「現有機能の維持」を強調する。しかし、那覇軍港の機能は明らかにされず、完成後の運用の説明もしない。現状を見れば、無制限の利用を許すことになるのは明らかだ。しかも工事費用は日本国民の税金だ。普天間飛行場の代替施設として進められている名護市辺野古の新基地と全く同じ構図だ。

 沖縄では経済のための埋め立てが続いてきた。広大な土地を占める米軍基地が経済発展を阻害してきたことも背景にある。那覇空港拡張は、空港機能の維持・拡大のためにやむを得ないと考えた県民が多かったはずだ。失うものと得るものをはかりにかけなければならない場合もある。

 しかし、辺野古と浦添は、米軍基地である。軍事のために美しい海を永久に失い、際限なく軍事化されていっていいのか。悔いを残さないよう「移設なき返還」実現を、県民挙げて議論すべきだ。