偶発的な軍事衝突を回避する手だてが必要だ。継続的な対話による両国の信頼関係の醸成に努めるべきだ。
中国軍のY9情報収集機1機が26日午前、長崎県五島市の男女群島沖で約2分間、日本の領空を侵犯したことを防衛省が発表した。日本政府は中国側に厳重抗議した。
防衛省によると中国軍機による侵犯は、自衛隊が1958年に対領空侵犯措置を開始して以降、初めて。中国外務省は「中国はいかなる国の空域にも侵入するつもりはない」としながら、今回の件について「中国の関係機関が状況を確認中だ」と述べた。
中国側は早急に事実関係を確認し、公表しなければならない。意図的な侵犯であればいたずらに日本を挑発する行為であり、容認できない。両国間の緊張関係を解くためにも、中国は挑発的な行動を自粛すべきだ。
今回の領空侵犯に対する日本政府の反応は「わが国の主権の重大な侵害。安全を脅かすもので全く受け入れることができない」というものだ。林芳正官房長官や木原稔防衛相は「極めて厳重な抗議と再発防止を強く要求した」としている。
中国側による軍用機以外の領空侵犯は過去に2回確認されている。いずれも尖閣諸島・魚釣島周辺で、2012年に中国国家海洋局の固定翼機が、17年には中国国家海洋局の船舶から飛び立った小型無人機がそれぞれ侵犯した。尖閣諸島の領有権を主張する中国の政治姿勢の延長に、この空域での侵犯を位置付けることができよう。
長崎県五島市の領空を侵犯する意図は不明だが、過剰に脅威をあおることがあってはならない。冷静な対応を日本政府に求めたい。
尖閣周辺海域における中国艦船の活発な行動は、八重山地方を中心とした県民や国民の不安を生んでいる。今回の領空侵犯はさらに不安を広げ、反中国感情を招くことにもなろう。それは両国にとって不幸な事態である。
領空侵犯や恒常的となった尖閣の領海侵犯によって両国の間に軍事的緊張が続いている。予期せぬ偶発的な衝突が激しい戦闘につながる恐れもある。1937年の日中戦争勃発も原因不明の銃撃に端を発した軍事衝突がきっかけだった。この歴史的経験に両国が学ぶべきだ。
偶発的衝突を避けるため、昨年5月から日中防衛当局幹部間のホットライン(専用回線)の運用が始まっている。衝突回避のための連絡網を絶やしてはならない。
同時に両国政府間のあらゆるレベルを通じた交流が求められる、現在、超党派の日中友好議員連盟(会長・二階俊博自民党元幹事長)が北京を訪れており、領空侵犯についても意見を交わした。
不幸な歴史を繰り返してはならない。信頼関係を保つため、両国の不断の対話を重ねる必要がある。