9月の毎週水曜と日曜に、路線バス運賃を終日無料にする県の「わった~バス利用促進乗車体験事業」が4日に始まった。通勤時間帯などに通常より多くの乗客の列が見られるなど好評のようだ。
深刻な交通渋滞により、県全体で年間1455億円に相当する経済的損失が生じていると試算される。沖縄社会の車依存を解消することは重要課題であり、公共交通への転換が大きな鍵を握る。今回の実証事業をバス利用の回復につなげる契機としたい。
モノレールのほかに鉄道がない沖縄にとって、路線バスが公共交通機関の主軸となる。だが、県内の路線バスの輸送人員をみると、1999年度に年間4249万人を運んでいたのが、2022年度は2245万人となっている。この20年余りで利用者数が半減している。
一方で、県内を走る自動車の数は同期間で81万7千台から119万6千台へと1.5倍近くに増えた。マイカーによる通勤・通学に加え、沖縄を訪れる観光客が利用する交通手段も6割超がレンタカーだ。沖縄の日本復帰以降のモータリゼーション(車社会化)が顕著になっている。
自動車の増加で道路が混雑することでバスの定時性が損なわれ、さらなるバス離れを引き起こすという悪循環に陥ってきた。そうして慢性化してきた渋滞に対し、道路の拡幅やバイパス新設で対応してきた。だが、景観や環境の保全、土地の有効利用といった観点からいつまでも道路整備に頼るのは限度がある。
そのためにも自家用車を使う一定の層を公共交通の利用へとシフトさせる施策が不可欠だ。新たな鉄軌道の議論もあるが時間を要するため、中短期にはバス利用の促進が現実的な対策となる。
自家用車を利用する県民にまずはバスに乗ってもらおうという今回の事業で、バスが普段の移動手段の代替になるという確証を得てもらうことが重要だ。これまでに快速性を高めた「基幹急行バス」の導入などバス事業の改革を進めてきた。それでも系統番号や路線網が複雑で、目的地に向かうにはどのバスにどこから乗ればいいのか分かりにくいといった指摘は多い。
乗車体験で集まった利用者のデータや声を基に、バスの便利さや快適さを高める改善策を見極め、求められる路線やダイヤへの見直しなど、改革のスピードを上げていくことだ。バスの使い勝手が増すことで県民の「わった~バス党」の機運が高まり、バス事業の安定をもたらす。
高齢ドライバーの交通事故対策が課題となる中で、運転免許証を返納しても移動に支障がない公共交通を整えることは、まちづくりや福祉政策として一層重要になる。地理に不案内な観光客にも公共交通の利用ニーズは高い。
誰にでもやさしい「ユニバーサル」な乗り物としてバスの進化に期待する。