<社説>兵庫県知事に辞職要求 公益通報者保護の徹底を


<社説>兵庫県知事に辞職要求 公益通報者保護の徹底を
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 パワハラや公益通報者保護を巡って追及されている斎藤元彦兵庫県知事に対し、兵庫県議会の全会派が辞任を求めることになった。追い詰められた知事だが、辞任を拒否し続けている。不信任決議までいくのか、可決されたら知事が県議会を解散するのかなど、先は見通せない。

 しかし、この問題でより重要なのは公益通報制度が機能しなかったことだ。行政機関においても、企業においても、公益通報者が確実に保護されなければ、パワハラや不正は明らかになりにくい。社会全体が制度に理解を深める機会にしなければならない。

 今年3月中旬、兵庫県の西播磨県民局長の男性が、7項目の知事の疑惑を告発する文書を関係者や報道機関に配布したことが発端である。同21日、知事が県幹部に通報者を特定するよう命じ、男性は25日に聴取され、パソコンを押収された。27日、知事は会見で「うそ八百」「公務員として失格」などと主張し男性を局長から解任した。

 4月4日に男性が県の公益通報窓口にも通報したが、5月7日、県は文書を誹謗(ひぼう)中傷と認定し、男性は停職3カ月の処分を受けた。その間、プライバシーが一部県議に漏れることも起きた。その後、県の内部調査の中立性が疑われたため、知事は第三者機関の設置要請を受け入れ、県議会は調査特別委員会(百条委員会)を設置した。

 男性は百条委で証言する予定だったが、関係者にプライバシーへの配慮を訴えるメールを送って約1週間後の7月7日、死去した。「死をもって抗議する」というメッセージが残されていた。

 その後、疑惑の一つであるプロ野球優勝パレードを巡る経費問題で、元担当課長が4月20日に亡くなっていたことが、3カ月を経て公表された。これも「自殺とみられる」と報じられた。

 県職員が2人も命を失う深刻な事態だ。しかし、知事は記者会見でも百条委の証人尋問でも、パワハラと公益通報者保護法違反を認めることを拒み続けている。

 5日の百条委に出席した奥山俊宏上智大教授は「知事らの振る舞いは公益通報者保護法に違反する」と断言し、3月の「公務員として失格」などとした知事会見を「公開パワハラ」と批判した。

 2006年施行の公益通報者保護法は、報道機関への通報も公益通報と認めている。プライバシーへの配慮も含め通報者に不利益な扱いをすることを禁止している。兵庫県の対応は、最初から同法違反であることは明らかだ。

 鹿児島県警でも、県警内部の不祥事をジャーナリストに通報した警察官が、守秘義務違反で逮捕・起訴された。通報者が保護されない事態をこれ以上許すわけにはいかない。制度の趣旨を徹底し、行政や企業に従わせ、違反者を厳しく処罰できるよう、法改正の議論も必要である。