長崎原爆の「被爆体験者」44人(うち4人が死亡)が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は死亡した2人を含む15人に手帳を交付するよう県と市に命じた。原告全員を被爆者と認めた広島黒い雨訴訟の広島高裁判決に照らし、国の援護区域外の一部地域の原告を被爆者と認めた。区域外の一部にも「黒い雨が降った」と認定した。
原告の被爆体験者は、被爆者と同じく手当の対象となる11種の疾病にかかったとして、救済を求めてきたが、国は援護区域外については十分に対応してこなかった。従来の国の姿勢を批判する判決といえる。
岸田文雄首相は体験者の救済要望を受け、8月に厚生労働相に解決に向けた調整を指示している。国は今後の対応に際して判決を重く受け止める必要がある。国の責務として、被害実態の解明と全面的な救済を急ぐべきだ。
地裁判決は、原告の大半である29人の訴えは退けた。放射能の影響について、旧長崎市の東側の風下に当たる旧3村について認めた。一方、29人のいた地区には「放射性降下物が降った的確な証拠は存在しない」と結論づけた。
訴訟を通じて、原告からは「行政区域に沿って放射線の被害が出るわけがない」との疑問の声が上がった。「雨は行政区域ごとに降るのか」と言い換えることもできよう。
支援の網から取り残された一部原告らの訴えは退けられた。被爆者と同じ疾病を発症しながら「被爆体験者」と呼ばれて被爆者健康手帳は交付されなかった原告たちである。「被爆体験者」とさえ長年認められなかった原告もいる。判決は原告らの間に格差を生じさせたとの批判もある。
黒い雨の降雨地域を線引きすることが理解を得られるとは思えない。
援護区域外の救済を巡っては、広島の黒い雨被害者が2021年に広島高裁で原告全員の被爆者認定の判決を得て全面勝訴している。広島高裁判決は「黒い雨」の雨域をより広く捉え、空気中の放射性微粒子を吸い込むことなどによる内部被ばくで健康被害が出る可能性を指摘していた。
この判決は確定し、被爆者認定の新基準の運用が始まったが、長崎の体験者は対象外だった。
今回の長崎地裁判決について原告側が「認定のハードルを上げた」「広島高裁判決を後退させた」と批判しているのはもっともなことだ。
原告はいずれも高齢である。時間は多く残されていない。被告の長崎県や市は被爆者と認定された15人について控訴せず、訴えが退けられた29人についても救済へ向けて対応すべきだ。
今回の判決は、被害実態が未解明である長崎原爆について、さらなる広範な調査が求められていることを国や自治体に突きつけたとの識者の指摘がある。実態解明にも国の積極的な関与が必要だ。