宜野湾市長選で6年ぶりに就任した佐喜真淳市長が公約で掲げた普天間飛行場所属機の段階的分散移転と返還時期の明確化について、木原稔防衛相は10日の記者会見で「全体的な工期に影響を与える」として、取り組むのは困難との見解を示した。
普天間飛行場の危険性除去策として佐喜真市長が公約で掲げたのは、新基地建設が進む名護市辺野古の埋め立て地を含む全国への常駐機分散移転である。木原防衛相の発言は辺野古に限ったものだが、事実上、政府は佐喜真市長の公約を否定した格好だ。
佐喜真市長は過去の市長選で辺野古新基地建設に対する姿勢を示すことに慎重だった。今回の選挙では松川正則前市長を継承して「新基地容認」を表明するとともに、危険性除去策である普天間所属機の分散移転を打ち出した。新基地計画に沿った普天間返還を前提としながら、公約として市側の危険性除去策を提示したのである。
分散移転は新基地建設が進む間、市民の安全を確保するための次善策として掲げたのだろう。公約は市民との約束である。今選挙で佐喜真市長は最重要政策として、政府との協調路線による普天間問題の解決を訴えた。就任早々、政府に否定された公約の実現性について市民に説明する必要がある。
普天間問題で沖縄側が政府方針を受け入れる代わりに何らかの要求をしたとしても、政府がそれを守る保証はない。むしろ、政府は沖縄側の要望をほごにしてきた。
普天間問題の現実的解決を模索した稲嶺恵一元知事は1998年の県知事選で軍民共用空港建設と15年使用期限を公約として掲げ、実現に向け政府との協議を重ねた。しかし、2005年の米軍再編協議で白紙化された。
仲井真弘多元知事が13年末、新基地建設に向けた埋め立て承認の事実上の条件として「普天間飛行場の5年以内の運用停止」を政府に提示した。しかし、この要求は全く顧みられることはなかった。
その後、普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの墜落やCH53大型ヘリコプターの部品落下などの重大事故が起きている。危険性除去が放置されたまま、新基地建設だけが進んだ。佐喜真市長はそのことを今一度認識すべきだ。
佐喜真市長の公約を否定した政府も、完成のめどが立たない辺野古新基地にいつまでも固執してはならない。会見で木原防衛相は「現在の計画に基づいて着実に工事を進めていく」と述べたが、「辺野古唯一」の姿勢が普天間飛行場を固定化しているのだ。
米軍機騒音にさいなまれ、墜落や部品落下の不安を抱く市民を政府は直視すべきだ。辺野古新基地への固執は危険性除去の放棄でしかない。実現可能性が乏しい計画を断念し、危険性除去策の策定を急がなければならない。