差別や偏見のない共生社会の実現に向け、さらに強く踏み出さなければならない。
旧優生保護法下での強制不妊手術を巡る訴訟で、原告側と政府が和解の合意書に調印した。内容は、手術を受けた本人に国が1500万円の慰謝料を払うことが柱で、国が被害者に多大な苦痛と苦難を与えたとして「心より謝罪申し上げる」と明記した。
各地で係争中の訴訟は順次和解手続きに入る。強制不妊を巡る訴訟は2018年の初提訴から約6年7カ月を経て決着を迎えることになる。
議員立法で1948年に制定された旧優生保護法は、障がいや精神疾患を理由に、本人の同意がなくても不妊や中絶の手術を可能にした。被害者は約2万5千人とされ、「戦後最大の人権侵害」とも言われる。
新たな補償制度を検討している超党派議員連盟のプロジェクトチームは、原告以外の被害者に対し、手術を受けた本人へ同額の1500万円を補償するなどとした案をまとめた。秋の臨時国会への法案提出を目指している。
旧優生保護法を憲法違反とし、国の賠償責任を認定した最高裁大法廷判決が7月に出され、和解の合意までは既定路線ではあった。原告や被害者の高齢化も進む。全被害者への補償を急がねばならない。
一連の訴訟の原告は40人に満たず、差別や偏見を恐れ声を上げられない被害者も多い。2019年には一時金支給法が成立したが、請求者は千人余にとどまっている。
補償に向けた新法も遅らせてはならない。10月1日にも召集される臨時国会では、自民党総裁選で選ばれた新総裁が新首相に指名される見通しだ。そのまま衆院解散・総選挙に突入すれば、早期の新法成立も危ぶまれる。
旧優生保護法は議員立法で制定された。旧法が招いた被害の責任は、政府のみならず国会も負うべきだ。各党は被害者の早期救済へ責務を果たしてもらいたい。
また、旧法の下で人工中絶を強いられた人への救済も課題だ。一時金支給法の対象になっていない。超党派議連では、一時金200万円を支払うとして、具体的な認定基準を詰めるという。被害者が納得するような救済策を講じてほしい。
合意書では「国は優生思想と障害者に対する偏見差別を根絶し、全ての個人が疾病や障害の有無により分け隔てられることなく尊厳が尊重される社会を実現すべく、最大限努力する」と記された。
ハンセン病元患者らも国策によって差別や偏見に苦しんだ。旧優生保護法を巡っては昨年6月、調査報告書がまとまったが、国や国会などの責任の所在は明確になっていない。誤った法律は社会全体の差別意識を助長した。歴史を直視し、差別と偏見を生み出さないよう改めて国民全体で議論を深めていきたい。