沖縄の将来像を語ってはいた。沖縄に寄り添うという姿勢も見せてはくれた。しかし、米軍基地の負担軽減で具体策がないのはどういうことか。次期首相候補の沖縄政策としては納得できない。
自民党総裁選候補者の演説会が那覇市内で開かれた。立候補している9氏が県内の党員・党友に対し、自身の政策や沖縄に関する姿勢を表明する場となった。それぞれの演説は沖縄の可能性を称揚しながら、人材育成や離島振興などの振興策を示すという内容だった。半面、基地問題への言及は少なかった。
9氏に聞きたい。米軍基地の存在が沖縄振興の障害になっている事実をどれほど直視しているのだろうか。1972年の施政権返還後も残された広大な米軍基地が県経済発展の足かせとなっている。それは自民党支持者も含む県民多数の共通認識である。
大規模な基地返還を含む負担軽減が進まない限り、沖縄振興策も効果を持ち得ない。具体的な基地負担軽減策を示さない限り、首相を目指す9氏の沖縄施策に及第点を与えることはできない。演説会の開催意義も問われよう。
振興策と同様、県民の人権を脅かし、平和で豊かな県土づくりの障壁となっている米軍基地の整理縮小・撤去を沖縄施策の柱に置くべきだ。その焦点である普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設問題に関する発言がほとんどなかったことは理解に苦しむ。9氏にとって普天間は「終わった話」なのだろうか。
官房長官の林芳正氏は「(普天間返還は)民主党政権で後退した。その遅れを取り戻すために安倍内閣、菅内閣、岸田内閣と必死でやってきた。その流れをしっかり受け継いでいく」と述べた。
他の8氏も同じ姿勢なのだろう。しかし、歴代政権の「必死」さは、沖縄では民主主義、地方分権を大きく逸脱する強硬姿勢に転じている。かたくなな「辺野古唯一」の姿勢を改め、新たな危険除去策を模索すべき時に来ていることを自覚してほしい。新基地に固執する限り、普天間の危険性除去は見通せない。
頻発する米軍の性犯罪の抜本的な防止策も示すべきだ。カギとなるのが日米地位協定の抜本的な改定である。
外相の上川陽子氏は「基地関係者の性犯罪、性暴力は二度と起こさせないという厳しい姿勢で交渉に臨む」と述べ、地位協定の問題に取り組む考えを示した。明確に地位協定見直しに踏み込んだのは元党幹事長の石破茂氏だけであった。本来ならば9氏全員が地位協定改定を目指すべきである。それが主権国家のあるべき姿ではないか。
私たちが国政に求めるのは過重な基地負担解消と、それを前提とした沖縄振興の道筋である。首相指名後の解散総選挙も取りざたされている。今後も自民党に政権を任せてよいのか判断する上でも総裁選を注視する必要がある。