<社説>日本人男児刺殺 中国は悲劇生まぬ対策を


<社説>日本人男児刺殺 中国は悲劇生まぬ対策を
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 中国広東省深圳で、日本人学校に登校中の男児が刃物で刺され死亡した。痛ましい事件が起きてしまったことに、悲しみと憤りを覚える。

 容疑者の中国人の男は地元警察に拘束されたが、動機など詳しい情報は明らかになっていない。このような悲劇を繰り返してはならない。中国政府による詳細な事実関係の速やかな公表と、日本人をはじめとする在留外国人の安全確保策の徹底を求めたい。

 事件を受け、岸田文雄首相は、中国側に事実関係の説明を強く要求する考えを表明し、「極めて卑劣な犯行で、重大かつ深刻な事案だ。日本人の安全確保と再発防止を求める」と語った。

 中国では今年6月にも、江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人の母子が、中国人の男に刃物で切り付けられる事件が起きた。この時、犯行を止めようとした中国人女性が容疑者に刺され死亡した。蘇州では4月にも日本人男性が面識のない中国人の男に首を切られる事件が起きている。

 深圳の事件があった18日は満州事変の発端となった柳条湖事件から93年で、中国各地で記念行事があり、反日感情の高まりも見られた。

 日本人学校に対しては、以前から中国の交流サイト(SNS)で、スパイの拠点などと主張する根拠のない投稿などが相次いでいた。政権批判の言論は厳しく取り締まる中国当局も、日本を標的とする投稿は放置してきた。

 中国国内の景気低迷が続く中、当局は不満のはけ口として攻撃的な投稿を黙認してはいなかったか。邦人が標的になった事件の一因になってはいまいか。

 地元紙の深圳特区報(電子版)は20日、警察が「偶発的な事件」と判断したと報じた。前日には、中国の孫衛東外務次官も「前科のある者による個別の事案」と日本側に説明した。

 現地の邦人社会では不安が広がっている。日本企業の中には、駐在する従業員への注意喚起のほか、一時帰国を認める動きもある。中国当局は故意に日本人を狙った犯行ではないとするが、反日的とも言えるSNSの投稿に影響された犯行ではないと言い切れるのか。懸念が払拭されるような説明とは言えない。

 尖閣問題や原発処理水の海洋放出などを巡って日中関係は冷え込んでいる。一連の事件について、容疑者の詳しい動機や背景を日本側へ明らかにしなければ、疑念は膨らみ両国の関係はさらに悪化し、今後の民間交流にも多大な悪影響をもたらしかねない。

 中国国内の反日感情にどう対応するのか。再発防止や安全確保策を実効性のあるものにするためにも、中国当局に真摯(しんし)な対応を求めたい。

 日本政府においても、詳細な事実関係の説明を求めることと合わせ、国内世論へ冷静な対応を呼びかけるよう努めてほしい。