自民党総裁選は決選投票の結果、石破茂氏が新総裁に選出された。10月1日召集の臨時国会で新首相に指名される運びだ。年内にも解散総選挙が実施される公算が大きい。
岸田政権は「政治とカネ」「政治と宗教」を巡る問題で内閣支持率は低迷し、深刻な政治不信を招いた。総裁選は岸田政権を総括し、政治の信頼を取り戻すための道筋を示す機会であるべきだった。
しかし、総裁選に立候補した9氏の論戦を通じて、政治不信払拭の具体案が提示されたとは言いがたい。
12日の告示から27日の投開票まで自民党総裁選は多くの耳目を集めた、しかし、政治不信を招いた責任は残されたままである。石破氏は党派閥や議員が引き起こした問題への反省を踏まえ、政治の信頼を取り戻す方策を自らの言葉で語らなければならない。
石破氏は党内でも論客、政策通と目されてきた。特に安全保障政策に明るく、防衛庁長官、防衛相を歴任した。総裁選で唯一、日米地位協定の見直しを明言した。防衛庁長官時代に発生した沖縄国際大米軍ヘリ墜落事故で日本の警察が捜査のらち外に置かれた経験を踏まえたものだ。
総裁選後の会見で地位協定改定を求める党県連など沖縄の声を「等閑視すべきだとは思っていない」と述べ、強い姿勢で臨む考えを示した。
これを口約束で終わらせてはならない。沖縄県は米軍に特権的な地位を与える協定の改定を要望し続けている。県の要望に沿い、改定実現に向けて具体的に行動することが求められる。対米交渉にも果敢に挑んでもらいたい。
持論である「アジア版北大西洋条約機構(NATO)」創設を政策に掲げた。しかし、このような施策が東アジアに無用な緊張を生むことにならないか。
沖縄から石破氏に注文したいのは軍備増強ではなく、対話による平和と安定の構築である。「台湾有事」を念頭に、岸田政権下で急速に進んだ宮古、八重山地区の自衛隊配備は中国をいたずらに刺激するだけでなく、地域住民の新たな基地負担となっている。このような軍備増強路線を修正してもらいたい。
辺野古新基地建設で沖縄の民意を押しつぶすような強硬姿勢も改めるべきだ。
2013年11月、党幹事長だった石破氏は自民県選出・出身国会議員5氏の普天間県外移設公約を撤回させ、辺野古移設容認の発表に同席させた。石破氏と、その横でうなだれて座る5氏の姿は「平成の琉球処分」とも例えられた。その時の自民党や石破氏の高圧的な態度を県民は今も忘れてはいない。
事業費が際限なく膨張し、完成時期のめどすら立たない新基地建設計画は既に破綻している。石破氏はそのことを認め、新たな普天間の危険性除去策を追求すべきだ。実現可能性が乏しい計画にいつまでも執着してはならない。