10月下旬から始まる日米共同統合演習「キーン・ソード」で、沖縄県内の港湾や空港、道路といった民間の公共インフラを使った訓練が各地で実施される。沖縄での演習は回を重ねるごとに大規模化し、本来の訓練区域を越えた島全体の軍事使用がなし崩しで広がっている。
沖縄は多くの陸域と空・海域が、米軍や自衛隊の基地、訓練場として提供されている。これ以上負担の余地がないのは日米両政府も承知のはずだ。それにもかかわらず、民間区域にまで広げて演習を激化させるのは不合理だ。
米中、日中間で続く示威行為の拡大を止めなければならない。沖縄を演習地扱いし、南西諸島を戦闘に巻き込むリスクを高める大規模演習に断固反対する。
政府は2022年に策定した国家安全保障戦略に基づき、有事の際の自衛隊や海保の使用に備える「特定利用空港・港湾」の指定を進めている。23年の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、県内の民間インフラを平時から日米で軍事利用することも確認した。今回の統合演習は、日本国内の公共インフラを使った有事の展開を実践する目的が見て取れる。
県内では那覇・新石垣・与那国の3空港、中城・石垣・平良・久部良・那覇の5港湾を使用する。空自那覇基地から那覇軍港までの公道では、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の発射機を搭載した車列訓練を実施する。
離島県の沖縄では空港・港湾のインフラは代替が利かず、受け入れ容量に限りがある。軍事利用が増えれば、県民生活や事業活動を間違いなく圧迫する。軍民混在となることで民間インフラも攻撃の標的となり、住民を戦闘に巻き込む恐れが強まる。
県民の過重負担や被害リスクが増すだけではない。米軍と自衛隊による実戦を想定した大規模演習は近隣諸国を刺激し、東アジア地域の緊張を一層高める。
日米が共同で行う統合演習は、図上演習の「キーン・エッジ」と部隊を実際に動かす「キーン・ソード」をほぼ1年置きに実施する。直近のキーン・エッジで、仮想敵国を初めて「中国」と明示したことが報じられた。南西諸島での実動演習には、中国による台湾侵攻への対処能力を誇示する狙いがあるのだろう。
中国軍も台湾を取り囲む形の軍事演習を3年連続で実施しており、演習の常態化に警戒が強まっている。22年の弾道ミサイル発射訓練では、一部が沖縄近海の排他的経済水域(EEZ)内に落ちた。
25日には海自の護衛艦が台湾海峡を初めて通過した。中国軍による情報収集機の領空侵犯や空母の接続水域航行などへの対抗策とみられる。
挑発をエスカレートさせてはいけない。対話のチャンネルを確保し、軍事行動の抑制で歩み寄る外交が優先だ。