<社説>制服選択制の導入 多様性の尊重は学校から


社会
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 県立那覇高校は3学期から、性別に関係なく、ズボンやスカートなど制服を自由に選べる制服選択制を導入する。LGBTなど性的少数者への配慮や利便性を重視した。

 制服選択制は県内では県立浦添高校が昨年4月に導入したのに続き2校目だ。昨年春に本紙が調べたところ、県立高校60校のうち58校が制服を採用している。女子がスラックスを着たい場合、制服購入時に注文書に記入するだけで可能なのは11校、学校から許可が必要なのは9校だった。
 県外では高校にとどまらず中学校でも多様なニーズに応える試みが広がっている。スカートやスラックスだけでなくネクタイやリボンなど自身が着用を望む制服の組み合わせを自由に選べるなど制服を全面的に見直す取り組みだ。
 全国的に見ると、県内で制服を見直す学校はまだ少ない。浦添、那覇の2高校が性的少数者への配慮に道を切り開いた意義は大きい。
 県内自治体では、那覇市が性的少数者のパートナー制度を導入したり、浦添市が「性の多様性を認め合うまち」を宣言したりし、性的少数者の人権を尊重する動きは広がりつつある。ただ当事者にとってカミングアウト(告白)しにくい現状を変えるには、まだ道のりは遠いと言える。
 大人になっても親にさえ言い出せずに悩んだ当事者の話を聞くと、親しい人にも相談できずに苦しむ子どもたちの姿が目に浮かぶ。
 心と体の性が一致しない性同一性障害の受診者を岡山大学病院が調べたところ、当事者の9割が中学校を卒業するまでに性別への違和感を自覚し、4人に1人は不登校を経験した。7割は自殺を考えたことがあり、2割は自傷・自殺未遂の経験があった。特に中学校では体の変化や恋愛、制服着用などさまざまな原因が重なり、自殺を考える割合が高くなるという。
 政府は2012年に自殺総合対策大綱に初めて性的少数者への対策を盛り込んだ。文部科学省は15年以降、性的少数者の児童・生徒へのきめ細かな対応を求めている。教員の研修や学校現場での情報共有などが一層必要だろう。
 県教育庁が13年に実施した県内小中高校へのアンケートでは、自分の性に違和感を持つ児童・生徒は小学校4人、中学校8人、高校23人だった。児童・生徒に直接聞いていないため、実態はさらに多いとみられる。
 県内中学高校のほとんどが制服制である。性的少数者は中学入学を機に深く悩む可能性が高い。制服の見直しはそれを軽減する一助となる。
 性的少数者の人権を尊重する取り組みは今後さらに求められる。最終的な目標は性的少数者が特別な存在ではなくなる社会の実現だ。子どもたちにとって、個性多様な仲間や教員と出会う学校は大人へと踏み出す社会である。多様性の尊重は、教育現場で身に付けてこそ将来に生きる。