<金口木舌>外界志向、志、チャレンジ精神


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 江戸の豆腐屋七兵衛が貧乏長屋をのぞくと25、6歳の若者が、朝から晩まで書物を読むか筆を執っている。話を聞くと「勉強して世の中を良くしたい」と言う。それなら出世払いでいいからと豆腐や握り飯を毎日差し入れた

▼落語「徂徠豆腐(そらいとうふ)」の若者は、8代将軍徳川吉宗に政治的助言もしたという儒学者の荻生徂徠(おぎゅうそらい)がモデル。この話が人情話として庶民受けするのは、七兵衛がさりげなく、損得抜きで頑張る若者を応援するからだろう
▼東京のウチナーンチュにも若者の支援者がいる。日産ディーゼル工業元社長の仲村巌さん(71)だ。私財を投じて「ロッキー・チャレンジ賞」を設け、沖縄の若者に目標となる人や団体に毎年100万円を贈る。今年で5回目
▼選考基準は「外界志向、志、チャレンジ精神」と明確だ。「小さな島にこもらず広い世界に出て、高い志を育み、自身の能力や才能を伸び伸びと開花させてほしい」と願う
▼「地元志向が強い」のはいまや全国の若者に見られる現象だが、仲村さんは「沖縄が尊厳を持って自立するには一流の人材を育てないといけない」と沖縄の若者の奮起を促す
▼さりとて“出世払いでいい”とは言いにくかろうと思う。ところが、仲村さんは「年寄りがお金を握りしめているより、優秀な若者の方が何倍にも活用できるはず」と笑う。志の高い先輩の背中もまた若者の目標になる。