<南風>GIFT


社会
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 ある朝、アトリエに1本の電話が入った。明日の夜に長く付き合う大切な人にプロポーズするという男性から赤いバラの花束の依頼だった。キリのいい100本ではなく「永遠の愛」を意味する99本の花束。ずっと好きだった。つまりは結婚を誓うことを伝えるための大切な演出と聞き、急いで華やかで気品あるバラを求め市場へと向かった。

 今回の花束に使うバラの品種は、スペイン語で最愛という意味を持ち、ビロードのような光沢のある花びらが美しい「アマダ」しかないかな。そう考え、業者に協力してもらいながら、何とかイメージの花を仕入れそろえることができた。

 フラワーアーティストとして、依頼を受けるときはその思いも一緒に作品に込める。大切な人へ気持ちが届きますように! そう願いながら丁寧に花を束ねていく。そしてオーダー通りに情熱の赤を99本入れたところで、白のバラを1本だけサプライズで加えて仕上げた。それは「100%の愛」を意味する100本目のバラを、相手の返事で赤に染めてほしいという願いがあったから。

 翌日、とびっきりすてきなスーツで花束を受け取りに現れた男性に、よろしければと1本の白いバラの趣旨を伝えると、サプライズをとても喜んでくれた。緊張した表情。一世一代の大勝負に向かう彼に「Good luck」とエールを送り、そっと見送る。そのプロポーズが成功したのを知ったのは半年後。幸せそうな新郎新婦のウエディング写真が、うれしいメールと一緒に届いたのだった。

 人生には花を贈る、贈られるたくさんの物語があると思う。気持ちを届ける贈り花は、贈った人ももらった人も、うれしさや喜びという美しい感情で満たされている。その温かな瞬間に触れる度、私自身も作り手として最高のギフトをいただいている。
(宮平亜矢子、フラワーアーティスト)