<南風>クチャとシルクロード


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 沖縄の中南部をはじめ、北は奄美諸島の喜界島、南は宮古島を経て八重山の波照間島まで延々と1500キロにも広がった地層がある。方言でクチャと呼ばれる、泥岩からなる島尻層のことである。

 クチャの語源について気にかけ30年余になる。泥岩は乾燥すると非常に固くなり、割れるとコロコロした塊になる。しかし水を含むと、足が抜けなくなるほど粘っこい粘土になる。
 中国大陸の遙(はる)か奥地、シルクロード沿いにクチャという地名があることを知った。庫車と書く。方言のクチャと何らかの関わりがあるかもしれないと考え、クチャに行った。起源らしきものを探したが容易に見つかるはずはない。土地の人に尋ねると、クチャの地名の意味は、井戸という言葉の「井」の字に、町というか集落の道路の形態が似ているから、とのことであった。何だ、そういうことかと、少し失望した。遙か2千キロも奥地に来たのに、そのまま帰るわけにもいかず、ヒントになるものを探し求めて歩き回った。
 帰国後、ひらめいた。島尻層の泥岩は、中国大陸の大河長江から掃き出された泥や砂が太平洋側の海に積もり、それが隆起してできたものなのだと。長江の源流はまさに庫車付近で、そこら中で侵食された砂泥が起源である。先人には先見の明がある。泥岩の起源をそこに求めクチャと呼んだのではと。少しうがち過ぎだろうか。
 島尻層の泥岩は、海の堆積物で大陸のゴミの集まりだ。マグネシウムやカルシウムを多く含む。クチャは、マグネシウムの多い苦土質の土である。つまり苦土質の土、土は方言でンチャというので、クチャと呼んだのではないかとも考えられる。また、硬い土のことを方言でクファンチャというが、これが短くなった言葉でもいい。しかしいずれも定かではない。
(大城逸朗、おきなわ石の会会長)