<南風>一粒で未来は変わる


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 毎日食べる野菜。今、その種の作り方に問題があるのではと懸念されている。
 昭和40年代から種苗業界は野菜の安定供給と、形やサイズを均一化させるため、F1種と呼ばれる1代限りの種を積極的に生み出していった。農家も効率の悪い自家採取をやめ、F1種を買い求めるようになり、固定種は急速に姿を消していった。現在、F1種は「雄性不稔」という方法で作られている。雄性不稔因子を用いて作ったF1種は、雄しべも花粉もなく一代だけ実り、子孫を残さない。このように生殖能力を奪われ、命を生み出す力のない野菜が、今、流通している野菜のほとんどだ。そんな野菜を食べていて、体に影響が出ないと言い切れるだろうか。

 また、TPPが導入されれば、遺伝子組み換え作物が表示義務なしで市場に出回る可能性がある。これに抗(あらが)う方法はひとつ。この土地に合った固定種をなるべくたくさん残すことだ。そのためには自家採取した種を多くの人と共有し、未来へつなげる必要がある。そんな想(おも)いで、むい自然農園の益田航さんが始めたのが「うちなーシードバンク」だ。誰でも無料で種を借りることができ、蒔(ま)いた種が採取できた暁には倍返ししてもらうシステムだ。
 種の貸し付けは、毎月第2日曜日、浮島ガーデンで開催のハルサーズ・マーケットで行っている。採れたての野菜が並び、農家さんと直接話ができるとあって多くの人でにぎわう。もちろん種の蒔き時や栽培方法なども教えてもらえる。
 活動を知り、わざわざフィリピンから種を持って来てくれた方や、借りた種で自家採取し、近所に配っていると報告に来てくれた方もいた。なるほど、こんなふうにすそ野が広がるなら、TPPも怖くない。一粒蒔けば万倍で未来は変わる。変えられると信じている。
(中曽根直子、風土コーディネーター)