<南風>大山のターンム


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 12月。今年も田芋の季節がやってきた。田芋は琉球王国時代から生産され、行事料理に欠かせない。親芋に子芋が付くことから子孫繁栄の象徴でもある。

 25年以上も前だが、観光で来た沖縄でどぅるわかしーを初めて食べた。見た目の武骨さを見事に裏切る実に感動的な美味(おい)しさだった。その時の味が忘れられず、浮島ガーデンでも田芋料理を出したいと、探しに探してやっと出合えたのが、栽培を通して環境保全に取り組む宜野湾市大山のサンキューファームの宮城優さんだ。
 大山の田芋は他の地域のものに比べ、粘りも香りも良く、美味しさも格別だ。宮城さん曰(いわ)く「湧き水で栽培しているから」だそう。大山は沖縄最大の湧き水量を誇る。実際、田んぼを歩くと豊富な水を湛(たた)える立派なカーがいくつもある。湧き水は田んぼを経て海へと養分を運んでいる。潜ってみると宜野湾の海には見事なサンゴが広がっていた。
 しかしその田んぼは将来宅地化され、湧き水もろとも埋められてしまう方向にあるという。田んぼを埋める。それは美しい田園風景と豊かな海、田芋を失うだけではすまないと想像する。伝統の食文化を失うことは魂を失うことに等しい。加えて沖縄は食料自給率が20%台と低い。大きな天災が起こればあっけなく食糧難に陥るだろう。耕作地は生かすべきだ。
 数年前から田んぼを残そうと積極的な活動が始まっている。大山田芋ファンククラブが結成され、田んぼでイベントをしたり、大山田芋生産組合も行政に働きかけ、宜野湾市は2月6日をターンムの日に制定した。これに伴う催しも来年行われるようだ。宮城さんも田んぼ存続にとって一番の課題である後継者育てに尽力中だ。私は料理を通して訴えてゆく。こんなに美味しいもの、どうかなくさないで、と。
(中曽根直子、風土コーディネーター)