<南風>親愛なる君へ


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 あまりにも簡単に、他者の命を奪う子どもたち。あまりにも簡単に、自己の命を絶つ子どもたち。そして、それらの事件の背景にある闇を見ようとしない、臆病な大人たち。なぜ、僕たちは、日本をこんな国にしてしまったのだろう。

 あふれる非行。それらは全て「命の尊厳」が理解されないゆえに起こるものだと、僕は考えている。

 いじめ、傷害、殺人などは分かりやすい。他者が、親か、神様か、誰かからもらった、かけがえのない命を傷つける。奪う。

 恐喝も、窃盗も同じだ。他者が命を削って稼いだ金、その金で手に入れた物を脅し取る。盗む。

 暴走行為だって変わらないだろう。あんな騒音を立てられたら、眠れるはずがない。そうやって、他者の命の一部である時間を盗む。何より、危険な運転で自己の命を粗末に扱う。ドラッグについてもいえることだが、自殺行為だ。全て、他者と自己の命の尊厳が理解されないゆえに、起こったことなのだ。

 振り返れば、出会えないまま消えていった命があった。出会えたにもかかわらず、助けられなかった命があった。その一つひとつを思い出すたびに、後悔の念に押し潰(つぶ)されそうになる。命の尊厳を伝えなければ…

 僕は、今日も子どもたちを追いかけている。ときに少年院を飛び出し、学校を訪ね、街をさまよい、子どもたちに声を掛け続けている。もう、これ以上、後悔を増やしたくないから。

 この記事を見つけてくれた君に、お願いがあります。もし、先生にも、親にも、友達にも相談できないことがあったら、勇気を出して僕に連絡をください。

 君の今の苦しみが、僕なんかに解決できるものでないことは分かってる。それでも、まずは、一緒に考えるところから始めよう。

「日本こどもみらい支援機構 info@nipponkodomomiraishienkiko.jp

(武藤杜夫、法務省沖縄少年院法務教官)