<南風>落ちて知った藍草の浸漬


社会
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 伊野波盛正氏が所有する琉球藍製造所の藍草浸漬(しんせき)用水槽は長さ約6メートル、幅3メートル、深さ1・5メートルの立方体である。その水槽が横に3槽、手前に1槽の計4槽ある。藍草を浸漬するときは、予(あらかじ)め水槽の7分ほど注水しておき、その中に藍草を投入する。藍草が満杯気味になると、人はその上に乗って作業する。藍草の上に乗っても足元は沈まないのである。藍草が満杯した後は、上から縦横に真竹と丸太棒で抑える。藍草が水から浮き上がってしまうのを防ぐためである。

 記憶に残るお粗末な体験がある。沖縄市から本部町の伊野波氏の製藍所まで毎日のように往復していたため、肉体的には疲労気味であった。次々と藍草を投げ込んでいると、抱えた藍草が重かったのか、藍草に引かれて自分も一緒に水槽へ落下してしまったのだ。藍草が満杯気味であれば恥をかくこともなかったが、水面が見える状態だったので、着の身着のままで立ち泳ぎすることになった。しかも雨靴を履いたままである。

 泳ぎが達者であれば良かったが、ここでも伊野波氏の世話になった。薄笑いではなく「アキサミヨー」の大笑いであった。「水槽に落ちたのは小橋川先生が初めてですよ」と、付け加えられたのだ。情けないと思ったが、その後は関係者から「水槽に落ちたんですって?」と、カタクチワレーで聞かれる始末。

 おかげで藍草の浸漬に関しては細かな知識を取得することが出来た。夏藍と冬藍の浸漬時間の違いや溶液を排出するタイミングなど、視覚的・経験的な「勘」を学ぶことが出来たのである。一般的には水温と関係し、高い低いで排出液の瞬間を調節する必要がある。藍草に含まれる色素成分のインジカンが水に溶けてインドキシルになり、やがて石灰を加えて激しく撹拌(かくはん)することによってベンゼン環2個のインジゴ染料となる。
(小橋川順市、琉球藍製造技術保存会顧問)