コラム「南風」 涙誘うタックル


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 冬のスポーツといって頭に思い描くのはスキー、駅伝、それともサッカー。いやいや忘れてはならない、そう、ラグビー。

 ラグビーはルールが難しく、ごちゃごちゃして分からないという声も多い。実は至ってシンプル。陣地取りが中心で、相手の陣地奥にボールをおけばトライ。H型のポールに向かってボールをキックし入ればゴール。相手より多く点を取れば勝ち。ただそれだけ。
 陣地取りのゲームでありながら、前へパスできないという矛盾に面白みがある。自由度が高いことも大きな特徴で、パスにキックにランとさまざまな選択肢がある中、ひと際光るのが、ディフェンスのタックル。トライ以上に印象に残る。
 ものすごいスピードで走り込んでくる相手に勇猛果敢に突き刺さる。小兵が大男に向かう姿勢に誰もが判官びいきになる。ゴール前、怒涛(どとう)の攻撃を防ぐ足元へのタックルは涙さえ誘う。
 ではタックルは陣地を守るだけの手段なのか。否。アタックルという言葉もあるように、あくまで相手ボールを奪い返すことが目的。攻撃へ転じる起点となり、タックラーは仲間のトライを望む。仲間を信じて、自らを犠牲にする。やはりタックルは美しい。
 年始めにあたり多くの人がよりポジティブな目標を掲げる。ラグビーでいうとトライ。花形だ。でもトライを挙げることのできるスターはそれほど多くはない。また、トライをあげるまでにいくつもの困難も。それなら、いっそのこと、課題解決のためにしつこく“自己犠牲”してみては。
 トライは取れなくとも地道にタックル。仲間のバックアップ、トライを信じて。タックルで記録を残すことができなくても記憶には残る。トライは取れなくても信頼を得ることができる。
 あらためて好きな言葉。One for all, All for one.
(喜瀬典彦(きせのりひこ)、県ラグビーフットボール協会広報委員長)