コラム「南風」 粗食では健康になれない


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 昨今の困った風潮に、「穀物や野菜中心の粗食は体にいい」「動物性脂肪は不健康で、玄米などの自然食がいい」というものがあります。これらは栄養学を無視した、むしろ健康に悪影響を及ぼす考え方です。

 そのような食生活だった昭和20年代、日本人の平均寿命は50歳程度で、欧米諸国は70歳を超えていました。日本は先進国中最下位で、これは動物性タンパク質と脂肪の摂取が著しく不足していたためです。
 急速に寿命が延びた(健康状態がよくなった)のは昭和30年代以降で、食の欧米化によって「肉・卵・チーズ」の摂取量が格段に増えたから。このことは、穀菜食中心だった戦前の東北・北陸地方に脳卒中が多く、短命だった事実からも推測できます。脳梗塞だけを見ても、東北・北陸は現在でも患者数が多いのに対し、肉食文化だった沖縄は日本一少ないのです。
 穀菜食の主な栄養成分は糖質と食物繊維。ヒトが生きるのに不可欠な必須アミノ酸やビタミンは、わずかしか含まれていません。
 草食動物であるウシは胃の中で細菌を培養し、その細菌が合成するタンパク質やビタミンを吸収して生命を維持します。ヤギは、1日5キログラムの草を発酵させます。しかし、ヒトにこのような仕組みはなく、食物繊維を消化吸収する酵素もありません。穀物や野菜ばかりを食べる粗食では、生きていけないのです。
 必要なのは、体内で合成できない必須栄養素である、タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル(合成できる糖質は含まれません)。これらを十分に摂取するには、肉・卵・チーズなどの動物性食品が最適です。
 沖縄県では戦後まで、本土の10倍も豚肉を食べていました。豚肉を1斤、2斤と数えて、お盆や正月に配った慣習からも、日本一の長寿をつくった食生活がうかがえます。
(渡辺信幸、こくらクリニック院長)