コラム「南風」 てぃんさぐの花


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 沖縄を代表する歌の1つに、「てぃんさぐの花」がある。沖縄で生まれ育った人なら、だれもが一度は耳にしたことがあるであろうこの歌は、沖縄の人々の教訓歌として親しまれている。

 「てぃんさぐの花」とはホウセンカの事で、観賞用として庭園に栽培される花だが、花の色は、赤、桃、白色がある。沖縄では、女の子が赤いてぃんさぐの花の汁を爪先に塗って遊んだそうだ。赤は悪魔の目をつぶす魔よけになると考えられ、一説によると娘たちの身を守る術としての風習があったとも伝えられている。今でいう「ネイル」が、昔から自然の素材であるてぃんさぐの花で行われていたという事も、美容に関る仕事をしている私にとっては興味深い話であるが、何よりも歌詞が素晴らしい。
 一番の歌詞は、「てぃんさぐぬ花や 爪先に染みてぃ 親ぬ寄事肝に染みり」というものだが、その意味は、「てぃんさぐの花を、爪先に染めるように、親の教えは心に染めなさい」というもの。この「てぃんさぐぬ花」は、ほかにもさまざまな先人たちの思いや深い教えを今に伝えている。
 1番~3番までは、花や星、船の航海の様子を比喩で折り込みながら、「親と子の在り方の基本となる指針」を、4番~6番は、「人としての生き方や心構え」を指し示してくれており、短い歌詞に込められたその思いは実に深い。
 子供の頃、親が言う事をうやむやに聞き流したこともあったが、結婚して子供を産み育てる中で、どんな思いで言っていたのか理解できるようになった。子供を思う親の気持ちというのは、無条件に、無報酬に産まれてくるものである。
 見返りを求めて愛情を注ぐわけではなく、親はただただ、子供の幸せを願い生きている。「目上の方を敬い、親や家族を大切にしなさい」という教えをこの歌は教えてくれている。
(山川杉乃、うみない美代表)