脂質の代表ともいえるコレステロール。よく悪者扱いされますが、本当は生命維持に必要不可欠な物質です。男性ホルモン、女性ホルモン、ビタミンDなどといった人体に不可欠な物質はすべてコレステロールから合成されます。
体内では脳内に最も多く存在し、脳神経系の正常な働きにも欠かせません。しかし貯蔵することができないので、2割を食事からの摂取、8割を肝臓で作ってまかなっています。健康な人(家族性脂質異常症を除く)は、摂取量に応じて合成量が自然に増減され、数値は一定に保たれます。
したがって、肉や卵を食べるとコレステロール値が上昇するとの説は正しくありません。これはコレステロール薬を服用中の人に「卵や脂肪の摂取を減らしたら、数値が下がって内服不要になった」というケースがほとんどないことが証明しています。
脂質は必須栄養素ですから、不足すれば健康を害します。日本脂質栄養学会がさまざまな油をラットに与えた研究結果では、寿命を伸ばした安全な油脂はラードとバターで、逆に寿命を短縮した油脂として多くの植物油(カノーラ油、オリーブ油、菜種油など)が挙げられていました。
ブームになったリノール酸は、過剰に摂取するとアトピーや喘息(ぜんそく)を悪化させるといわれています。また、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸も危険性が指摘されており、欧米では使用が厳しく制限されている国もあるほどです。
私はマーガリンよりバター、つまり植物性より動物性の油を推奨しています。中でも安全かつ健康的なのはラード。おいしさが増し満腹感も十分で、ダイエットや美肌にも有効です。
豚肉を余すところなく食べ、料理にラード(アンダガシ)を使う沖縄豚肉料理の伝統こそが、日本一の長寿を支えてきたのです。
(渡辺信幸、こくらクリニック院長)