コラム「南風」 東京での出会い


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 十数年前、お客さまに紹介されて沖縄県出身者が都内で経営しているという飲食店を訪れました。当時、首都圏向けに沖縄食材の販売を開始したばかりで、その営業活動のためにあてもなく単身上京したことを話すと、「それならうちに泊まったらいい」と初対面にもかかわらず温かい言葉を掛けられ、その方の家に寝泊まりしながらあちらこちらと飛びまわっていました。

 「こんな良い人が、世の中にいるのだろうか」と感じたほど彼は親切で、こちらの商品を購入するだけでなく、居候の私にご飯まで提供してくださいました。
 営業活動をして、私が戻るのはたいてい深夜でしたが、いつも楽しみに待っており、お酒をくみ交わしながらその日の活動報告をしました。私も彼の沖縄から東京へ来ての「苦労話」や「楽しい話」をたくさん聞かせてもらいました。
 彼のように県外で活躍している方々に私ができることは何かと考えました。その結果浮かんだキャッチフレーズは「沖縄にあるものは、豚の鳴き声以外なんでも送ります」。利益は追求せず、要望を聞き、期待に応えることだけを念頭に行動しました。顧客の求める商品は一人一人異なりましたが、できる限りのことをしました。沖縄各地や離島を巡り、商品を送りました。
 なかなか手に入らない場合は、直接農家に声を掛けてお願いし、オーダーしたお客さん自身さえも「そろわないだろうな」「難しい注文だろうな」と考えている要望に応えることが生きがいでした。そうしているうちに、最初は数件だった取引先もおかげさまでだんだんと全国に広がり、今では世界各国に拡大しています。不可能そうな要望でも受け入れたせいで失敗も多々あり、取引先にもご迷惑をかけたこともありましたが、そうした多くの経験が今の私を形作ったのだと感謝しています。
(佐久間健治、三倉食品代表取締役社長)