コラム「南風」 国宝級の味噌


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 宮古島の「マルキヨ味噌」は「天然菌」で味噌(みそ)作りをしている貴重な味噌蔵だ。初めてマルキヨ味噌を訪ねた際、そのことを知り、どれだけ感激したことか。というのも蔵に棲(す)み付いている天然菌で味噌作りをしている蔵元(くらもと)は、今ではほとんどなく、私が知る限りでは福井県の「マルカワ味噌」だけだった。

 昔はどの味噌蔵も天然菌で味噌を作っていた。それがなぜなくなってしまったのか。聞けば昭和30年から40年頃、全国の味噌蔵は保健所によって「衛生面」を理由に塩素消毒され、味噌作りに必要な麹(こうじ)カビさえも死滅させられてしまった。そのため今ではどの味噌蔵も、種菌メーカーから化学的に純粋培養された種麹を買って味噌作りをしている。しかし行政の手は南の果てまでは及ばなかったのか、幸いにも宮古島では天然菌がしっかり生きていた。これは国宝級のすごいことだとマルキヨ味噌の下地康信さんに告げると、驚きながらも、「先代の清おばぁの味噌作りを守っているだけです」と、清さんと菌たちに感謝されていた。
 マルキヨ味噌でもうひとつ感激したのは、出汁(だし)が必要ないほどうまみがあることだ。ほのかに鰹(カツオ)の味がする。公設市場で鰹節が並んでいるのを見て合点がいった。宮古島は鰹がよく捕れる。麹カビはそういった風土の情報も記憶し、醸してゆくのだろう。
 先日、経済産業省が選ぶ全国の「ふるさと名物」に沖縄から七つの食品が選ばれ、その中にマルキヨ味噌の国産大豆味噌も入っていた。手前味噌だが、浮島ガーデンのベジタコライスも選んでいただいた。
 発酵は発光に通ず。本物の味噌汁を毎日食べていると腸内の善玉菌が増え、肌も光り輝く。想(おも)いが高じ、浮島ガーデンはマルキヨ味噌の即席味噌汁を開発した。風土の味でさらに美しく発光していただきたい。
(中曽根直子、風土コーディネーター)