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『サラエヴォの銃声』 一発の銃声が響くまでを張り詰めた緊張感で描いた群像劇

(C) Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016

 サラエヴォ事件として私たちがかつて授業で学んだのは、たった1行「オーストリア・ハンガリーの皇太子夫妻がセルビア人の青年ガヴリロ・プリンツィプによって殺されたことをきっかけに第1次世界大戦が開戦した」でした。この歴史が物語の中心となった作品です。

 実は私は、セルビア人とボスニア人の関係性というものを恥ずかしながらこの映画を観るまで全く無知でした。皇太子を殺したセルビア人の青年について、サラエヴォでは100年たった今でも「英雄か?テロか?」の議論が行われているのだそう。その二つの意見の間には、大きな大きな壁があってその壁は全くなくならない。この歴史的な背景をきちんと勉強してからこの作品を観るとさらに理解が深まると思います。

 現代のサラエヴォ、事件から100周年の記念式典を控えるホテルを舞台に、多様な人間劇が繰り広げられる群像劇です。ジャーナリスト、ガヴリロと同姓同名のミステリアスな青年、ホテルの経営難に苦悩する支配人、仕事熱心なホテルの従業員、スピーチの準備をしているVIP、ドラッグにはまっている警備員。それぞれが歩んできた人生のたった一瞬に、一発の銃声が鳴り響く。何人も出てくる人物たちの声を聞き、彼らの人生を思うと、人にはいろいろな背景があって、それぞれの意見が生まれることがよくわかる。社会への風刺を込めた作品を世に出してきたダニス・タノヴィッチ監督は作品を通して、宗教や人種、そんなことを考える前に、私たちは「人」として壁を取り払っていかなければいけないことを伝えています。

 この映画のラスト近くに出てくるテレビジャーナリストの一言がとても印象的でした。いまだ人種間に大きな壁がある現代社会ですが、どの地域にもある「壁」を取り払うにはどうすればいいか? 鑑賞後に誰かと話したくなる映画です。★★★★★(森田真帆)

3月25日(土)から全国順次公開

監督:ダニス・タノヴィッチ

出演:ジャック・ウェバー、スネジャナ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ


(共同通信)