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『かわうそ堀怪談見習い』柴崎友香著 すぐそばにあるささやかな恐怖

 

 これまでずっと、ホラーの手合いとは縁遠い人生を送ってきた。暗く重たい静けさの後に白い服の女がどーん!とか、普段はとても可愛い人形が急に血相変えて武器持ってばーん!とか、そういった娯楽を好き好んで選び取ることは若い頃からしていない。ただ、怪奇現象のたぐいの存在を完全否定する立場にはない。世界は、それを見ている人の数だけある。本当であろうがあるまいが、たまたま、私の目に映らないだけである。

 幽霊、的なものたちについても、スタンス的にはニュートラルだ。亡くなったおじいちゃんやおばあちゃんがもし現れたら、怖いというより、むしろちょっとうれしいんじゃないかと思う。二度と会えないと思っていた誰かがすぐそばにいてくれるなら心強い。そんなふうにも思う。

 そんな私が、この1冊には、ぞくりとしたのだ。

 語り手は、恋愛小説でブレイクしてしまったせいで、恋愛コラムとか恋愛指南とかの依頼が押し寄せるようになり、困惑している女流作家である。「恋愛小説家」と呼ばれないために彼女は、怪談を書こうと思い立つ。けれど彼女は、そのテのものを見る眼力を持っていない。しょうがないから、そのテのものを見ることができる人に会い、そのテのものがあると言われる場所を訪ねる。それをきっかけに、古い思い出が湧いてきたりする。そういった小さなエピソードが、連鎖するように次から次へと重ねられていく。この物語は、1人の作家の成長譚でもある。

 やがて語り手は少しずつ、「そのテのもの」とおぼしきものたちを目撃するようになる。眼力が増してゆくのである。急に、ぞくりとする。読み手のすぐそばで「見えないなあ」「見えないなあ」って言ってたはずの語り手が、向こう側に行ってしまうのだ。えっ行っちゃうの、待って、置いていかないでと心細くなる。

 そしてそれらの「そのテのもの」たちが、ごく日常的な、手の届く範囲内で姿を見せるからまた怖い。昼日中。電車の中。不意に届いた茶封筒の中。ささやかな恐怖が、すぐそばで小さくスパークする。

 物語終盤、中学時代からの親友との、とある記憶が一気に湧き出す。そこに女同士の、棘というか闇というか、そんなものがちらりとのぞく。その、ちらり、がこの本の肝である。これまで連綿と重ねられてきた、恐怖のチラ見せを締めくくるチラ見せ。くうっと唸って本を閉じ、顔を上げた時に見える景色にご期待あれ。

(KADOKAWA 1500円+税)=小川志津子

かわうそ堀怪談見習い
柴崎 友香
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(共同通信)