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『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』村上春樹著 偉業の全貌を紹介

 

 村上春樹が多くの翻訳を手がけていることは知られているが、この36年間でその数は70余点に上る。小説、詩、ノンフィクション、絵本とジャンルは多彩だ。その全作品に表紙のカラー写真と短い文章を付し、翻訳の師である柴田元幸との対談を収録した。

 これほど翻訳書を出している小説家は世界的にも珍しく、柴田によれば日本では森鴎外だけだという。まずその事実に驚く。

 小説家としてあまりに成功したため、翻訳は副業として見られ、村上自身「趣味の世界」「大好きな作業」「文章修行」と個人的な作業のように語っているが、その成果からすれば、これは紛れもなく文芸界、出版界における偉業である。

 村上は日本では無名だった作家を意識的に紹介してきた。なかでもその全作品を訳したレイモンド・カーヴァーは当時、米国でもほとんど知られておらず、その意味では村上によって発見された作家だった。

 サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』やフィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』、チャンドラーの『長いお別れ』といった既に定番の訳書がある名作にも挑み(村上訳のタイトルは英語のカタカナ表記)、新たな読者層を開拓した。

 そして何よりも、その翻訳が「作品理解、注入された愛情、翻訳の技術など、すべてが最高水準にある」(翻訳家・都甲幸治)ということだ。海外の作品との出会いに大きく貢献した村上の翻訳は、小説とは別に再評価すべき仕事だと思う。

(中央公論新社 1500円+税)=片岡義博

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(共同通信)