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『魂でもいいから、そばにいて』奥野修司著 霊的体験による家族の再生

 

 東日本大震災の後、被災者が語る「亡くなった家族に会った」といった不思議な体験談をノンフィクション作家が聞いて回った。

 16の家族のエピソードが実名で紹介される。偶然だろう、気のせいではないか、幻でも見たに違いない。そう言おうと思えば言えるケースもある。

しかし、兄の死亡届を書いている時、その兄から「ありがとう」というメールが送られてきた、亡くなった息子のおもちゃが突然動きだした、余震でおびえる暗闇の中で遺品となった夫の壊れた携帯電話が光った――。周りにいた者も同時に見聞きしている。理屈では説明できない。だからこそ、なかなか口に出せないことでもあった。

 だが著者が問うているのは事の真偽ではない。被災者たちは時に堰を切ったように、時におずおずと、しかし言葉を尽くして語る。愛しい人とどのように出会い、どのような時間を過ごし、どのような別れ方をしたのか。そしてどのように「再会」したのか。

 それは、それぞれに固有の形をした家族の、平凡だがまぶしい成熟と、突然の瓦解と、時間をかけた再生への物語である。

 大事なことは、霊であれ、夢であれ、玄関のドアを叩く音であれ、突如いなくなった最愛の人が「出現」したことで、悲しみと苦悩のただ中にあった人たちに生きる希望が灯ったということである。

 著者は彼らの語りに耳を傾け、丁寧に言葉に置き換えた。私たちはその言葉を受け取ることができる。それもまた、一つの追悼のかたちだろう。

(新潮社 1400円+税)=片岡義博

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(共同通信)