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『ブランケット・ブルームの星型乗車券』 吉田篤弘著 私たちの知らない遠い国から届いたコラム

 

 本書は新聞に連載されたコラムを1冊にまとめたものである。

 とはいえ今現在、日本で発行されている新聞の、ではない。「ブランケット・シティ」という街で発行されている「デイリー・ブランケット」という名の新聞で、コラム執筆者は専属ライター「ブランケット・ブルーム」君、27歳。

 ブルーム君は、「毛布をかぶった寒がりの」小さな街を独り静かに歩きながら、コツコツとコラムのネタを拾っている。

 路上に浮かんだ虹、世界一仕事の少ない消防夫たちのコーラス隊、睡眠を積極的に放棄した若者、走っていない列車の乗車券を売る発券所、ロビーしか存在しないホテル、キッチンテーブルを冒険する作家……。

 ブルーム君が目を向け、軽妙な筆致で描くのは、こちら側、つまり私たちの世界から見れば奇妙で謎めいた人物、事象ばかりである。だからといってこれらを作家の想像力が生み出したパラレルワールドで起こっている由無し事と片付けてしまってはあまりにもったいない、と私は思う。いや、正しくないと言ってもいいかもしれない。

 コラムのいくつかはこちらで起こっている様々なことの暗喩や皮肉と理解できるし、それによってこちらの方こそ奇妙だったのだと発見もする。しかしもっと根本的で重要なのは「ブランケット・シティ」という知らない街が確かに在るということ。「デイリー・ブランケット」も確かに発行されていて、ブルーム君は小さなコラムを連載しているのである。私たちが今まで知らなかっただけで。

 そんなロマンティックな気分にさせられる本です、と本稿を締めくくるともっともらしい形で納まりそうだが、それではやはりこの本を陳腐な場所に閉じ込めることになってしまう。

 想像力によって生み出された世界は、私たちが現実と称する世界と同等の美しさや重さ、そして意味や価値を持ち得る。主張することなんて何もないという風に淡々と綴られるブルーム君のコラムが、結果として主張しているのはそういうことなのではないか。

(幻冬舎 1600円+税)=日野淳

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吉田 篤弘
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(共同通信)