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『今日の人生』益田ミリ著 余すところなく味わい尽くす

 

「すーちゃん」を読んだのが2009年だから私はまだ26歳とかで、物語のテーマである結婚するとかしないとか、独りで生きるとか誰かと一緒だとか、そこまで切実に共感はしていなかった。あれから8年。34歳になって、周りの友達はだいたい結婚したけど自分の身には未だそんな気配もなく、正直未だにピンとも来ていない。

 当然だけどこの8年で、同じように益田ミリも8年分、年を重ねている。いつだって私に少し先の景色を見せてくれてきた、少しお姉さんの益田。発売された彼女の新刊を手に取り読む時間は、べつに自分に課したわけでもないのに、この8年間の習慣になっていた。生命保険はおろか、老後の蓄えすらまともにしていない私にとって、言ってみれば唯一の老いへの準備だ。

 ミシマ社が運営するサイト「みんなのミシマガジン」にて今も連載中のマンガを一冊にまとめた本書。今日心に残ったささやかなエピソードを描きとめたエッセーだ。

 お盆に帰省して父親とケンカし、タンスに向かってモノを投げ合ったこと。横浜中華街をはしごして、おすすめの一品を少しずつ食べるツアーに参加したら、夜には体重が2キロ増えていたこと。健診のために行った病院のロビーではサスペンスドラマが流れており、その日の犯人が医師だったこと。電車でキリンの形の傘を見たこと(柄が頭)。サーカスに行って、舞台から父と妹に手を振った幼い日のこと。喪服を試着し、似合うかどうかくるりと回ったとき、後ろめたい気持ちになったこと。海外の空港の免税店で、言葉が通じず店員に舌打ちをされたこと。それに対して何も言えず、自分を守れなかったことに後から悔しさが湧いてきたこと。虹を見上げる度に「これが最後の虹かもしれない」と思うこと。部屋に飾ったクリスマスツリーが幼い日の記憶を呼び起こしたこと……。

 世界には、優しいこともあればムカつくこともあり、わかり合えそうな人もいればそうでもなさそうな人もいる。でも誰もが欠けてはいけない、今日を構成するメンバーだ。

 いつか来る終わりの日に悔やむことのないように、笑ったり泣いたり憤ったりしながら、今日を余すところなく味わい尽くし、それを表現し続ける益田。その背中はぴんとしていて、けれど余計な力が入っていなくて、やっぱりいつも、見とれてしまう。

(ミシマ社 1500円+税)=アリー・マントワネット

今日の人生
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(共同通信)