エンタメ

『夜廻り猫(1)(2)』深谷かほる著 きっと大丈夫

 

「泣く子はいねが、一人泣く子はいねが」そう口にしながら、夜な夜な街を見回る猫がいる。その名も夜廻り猫・遠藤平蔵。本書は遠藤が出会った、心で泣く者たちの物語だ。

 楽しい夢が見られる呪いをかけてとねだる病室の少年、明日こそは学校に行く、そして敵を殺して自分も死ぬ、そう呟く少女、「never give up」を学ぼうとしている浪人生、ご祝儀貧乏を嘆く「不出来で不細工」な独身女性、深夜の労働者に敬意を表し、スーツに着替えコンビニで買い物をする初老の男性、人に無下にされて初めて、自分だって人を無下にしてきたことに気づく女性、「酒ばかり飲んでると怒られるからな」と、一人の居間でお茶をすする男性、小学生時代にいじめに遭い、以来同世代の友達が作れなかった息子から、初めて夕飯いらない、友達とラーメン食べに行くと電話を受けた夫婦……。喜び、悲しみ、後悔、怒り、安堵、希望、そのどれともつかないいろんな色、におい、味の涙が、こぼれ、そして乾いていく物語。

 そして物語に登場するのは人間だけではない。猫たちも個性豊かで魅力的だ。片目と親を失いながらも、誰も殺さず生きる子猫・重郎、「わかりますぅ~、そぉですよね~」ヘラヘラと調子のいいことを言いながら、それでも時に誰かを想い、誰かの心を軽くするワカル、「君は何がうれしい?君は何が怖い?君は誰かを好いて好かれたことがあるかい?」夜の闇に思いを吐露するひとりぼっちの集会猫・ゼン。そして傷付いた者の話を聞くたびに、背中の傷が増えていく遠藤……。

 悲しむ者がいないように、生きることが不安でないように、優しい夢が見られるように。大丈夫、きっと大丈夫。そう繰り返す遠藤の、切なる願いが読んでる者の胸を打つ。

 美しくありたい、いや、少なくとも今、この瞬間からでも胸を張って美しく、優しく、誠実に生きていきたい、そんなこと思い本を閉じた。どうかこの本が、一人でも多くの人の元に届くように。ひとり心で泣く夜が、すこしでも減るように。きっと大丈夫、そう信じられるように。

(講談社 各1000円+税)=アリー・マントワネット



(共同通信)